バイデン大統領誕生で日本経済への影響は?得する人・損する人“4つのポイント”

坂田 拓也 記者
ニュース 政治 経済 国際
 来年1月のバイデン大統領誕生はほぼ確実となった。トランプ政権では法人税減税や財政支出、金融緩和が進み、シェールガス革命の成功やアマゾン、グーグルなどテック企業の成長により、就任前の予想を裏切って米国株式市場は上昇した。バイデン政権になれば一転し、大企業への増税、中国に対する政策の転換、温暖化ガス(CO2)の排出抑制などが進み、日本経済に大きく影響する可能性がある。

 ◆ ◆ ◆

(1)対中国政策

 トランプ大統領は選挙戦の中でバイデン氏は中国寄りだと批判し、当選すれば「中国がアメリカを支配する」と繰り返し強調した。

 同時に、ニューヨークポスト紙のスクープにより、バイデン氏と中国の関係が俎上に載った。オバマ政権のバイデン副大統領が訪中した時、次男(弁護士)が同行して中国とパイプを築き、その後、中国企業と組んで米軍事企業を買収し、別の中国企業からは多額の顧問料を受け取っていた。父親の立場を利用して次男が不正に利益を得ていた疑惑であり、トランプ大統領は「犯罪」として特別検察官の任命を指示している。

 バイデン政権になれば対中国融和へ進むという見方もあるが、しかし、中国に対する強硬姿勢は米国の総意だという。

 ジェトロ(日本貿易振興機構)の若松勇・上席主任調査研究員はこう話す。

「中国が成長して01年にWTO(世界貿易機構)に加盟した頃は米国も歓迎していましたが、15年に、中国政府が製造強国入りを目指す『中国製造2025』を発表した頃には、米国は、軍事にせよ技術にせよ、経済にせよ中国を明確に警戒するようになり、今も警戒感は強まっています」

 議会ではトランプ大統領の共和党はもちろん、民主党も時に共和党以上に中国に強硬になってきた。

 今年1月、トランプ大統領は経済・貿易協定の第1段階として、中国が2年間で2000億ドル(21兆円)以上の米国産品を追加購入することで中国政府と合意した。

「トランプ大統領は安全保障とか人権問題にはそれほど真剣ではなく、貿易赤字のことばかり気にして、大統領選を前にこの合意により世論の支持を得られると考えた印象でした。逆に民主党のリーダー(シューマー上院院内総務)は公開書簡を出し、中国が、その構造的課題を是正する具体的なコミットメントを出さない限り、この合意に断固反対する、と警告したほどでした」(若松氏)

 米国の世論も中国への感情が悪化している。ピューリサーチセンターの世論調査では、「中国を好ましくない」と考える米国民の割合はこの数年増えている。コロナ禍の発生源となり、対策を怠ったという問題が拍車を掛け、今年7月には共和党支持者でその割合が83%、民主党支持者でも68%に上った。

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 バイデン政権が誕生しても、議会と世論を無視して対中融和策へ舵を切るのは難しいと見られる。

 しかし変わる点もある。自らの交渉力を自負するトランプ大統領は2国間交渉を重視し、多国間交渉は望まなかった。貿易の国際協調機関であるWTOに対しては「中国に肩入れしている」「不公正だ」と批判を繰り返し、加盟国多数が推す次期事務局長の候補者に反対して選出が遅れる事態になっている。

「バイデン氏は国際協調を重視して、トランプ政権で離脱したパリ協定(気候変動抑制に関する国際協定)に就任後すぐに復帰し、WTOを尊重して、日本や欧州など同盟国と連携して中国に圧力をかけるアプローチに変わっていくことが予想されます」(若松氏)

 今年、中国船が尖閣諸島周辺を航行した日数は300日に達して過去最多となった。

 日本の世論には、尖閣問題について「中国に弱腰」という批判が常にある。中国の新疆ウイグル自治区への弾圧、香港の自治剥奪など人権問題についても、米国は今年7月、香港の自治権を侵害した人やそれに関わる金融機関に制裁を加える香港自治法を制定した。こうした姿勢に比べ、日本は中国の問題に目をつぶり、経済取引を優先させていると批判される。

 日本企業の中国への進出意欲は旺盛だ。

 ジェトロが日本企業約1万社を対象に行ったアンケート調査では、最も重視する輸出先を「中国」とした回答が前回から大きく増えて28%を占め、2位の米国(15%)、3位のベトナム(8%)を引き離した。理由としては「需要の増加」が9割を占めた(19年3月)。

「コロナ禍により世界経済が停滞する中で、回復著しい中国市場への日本企業の期待は引き続き大きい」(若松氏)

 斎木昭隆・元外務次官は、「日本の貿易のパートナーとして中国が1番だ。経済関係を切り離すことはできず、決定的な対立をすべきではない。是々非々で臨むべきだ」と述べている(日経電子版・11月9日)。

 バイデン政権が国際協調を進めようとすれば、日本はトランプ政権の時より難しい立場に立たされるかもしれない。

(2)為替

 マーケット関係者や輸出企業の幹部は、バイデン政権で円高が進むことを懸念している。

 日本企業の海外売上高比率は2000年度の29%から年々増加し、18年度は59%に達した。近年は6割の高水準が続いている(ジェトロ世界貿易投資報告 2019年版)。円高が過度に進めば、90年代のクリントン政権時などこれまで繰り返されて来た円高による経済悪化が再来する。

 トランプ政権下でも1ドル110円台から円高がじわじわと進んできた。

 昨年夏、トヨタ自動車は20年3月期決算の想定為替レートを1ドル110円から106円に見直し、営業利益は1800億円の減益要因となった(8月2日決算より)。今期決算でも、11月6日発表時点で想定為替レートを前期実績109円から106円に見直し、前期に比べて営業利益は2650億円の減益要因となった。

 しかも足元では1ドル104円となり、来年3月の決算に向けて円高がさらに進めば業績は悪化する。

 東京株式市場は為替に敏感に反応する。日本経済は外需主導型で変わらず、海外投資家は東京市場に対して「円高は売り」「円安は買い」と考え、円高になればほぼ機械的に日経平均が下がる。

 為替に限らず、バイデン氏が掲げた公約の実現については米国上院の存在がある。

 上院(定数100)の勢力は共和党50、民主党48となった。残る2議席のジョージア州は今回の選挙で決まらず、来年1月に決選投票が行われる。民主党が2議席を獲得して同数になれば、副大統領として上院議長を兼務するカマラ・ハリス氏が票決に加わるため民主党有利となる。ジョージア州は大統領選ではバイデン氏が約1万2000票の僅差で勝ったが(11月20日時点)、もともと共和党の地盤だ。

「バイデン氏は製造業の雇用創出に7000億ドル(73兆5000億円)、環境部門には4年間で2兆ドル(210兆円)など大規模な財政支出を掲げていますが、共和党が上院で過半数を占めれば、大企業への増税や財政支出にはブレーキがかかります。しかし財政支出が減る分は、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融緩和によって補おうとして、国債の買い入れを増やすことも考えられます。財政赤字が拡大するのは確実で、ドルは売られて円が高くなります」(グローバルエコノミストの斉藤満氏)

 円高が重しになる一方、自動車の販売は中国や米国で急回復している。トヨタ自動車の10月の世界販売は前年同月から増えて約85万台に達し、市場の回復を上回って過去最高を更新した。

「11月15日に、日中韓、アセアン諸国など15カ国がRCEP(アールシップ=東アジア地域包括的経済連携)に署名しました。バイデン政権はRCEPに署名する可能性があり、貿易の自由化が進めば日本企業に追い風となり、円高の悪影響を吸収できるでしょう」(斉藤氏)

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