この原稿を書いている11月現在、フランスは、春に続く2度目のロックダウンの最中である。一応、12月1日までとなっているが、1日の感染者数が数万人に達しているので、多分、延長されるのではないか、と市民は戦々恐々としている。一方、完全ロックダウンとはいえ、第一次に比べるとかなり緊張感のない緩いものになっている。カフェやレストラン、商店が営業停止状態にあるものの、一歩外出すれば、通りに緊迫感は無く、人々は外出許可証(消しゴムで消せば自由に書き換えられ、何度も外出している人さえいる)を持って出歩いており、その人出はロックダウン前よりも多い印象。先月にはイスラム過激派による斬首テロが2度もあり、警官や軍隊が街角に立ち、一見ものものしい雰囲気はあるものの、学校や官庁などは封鎖されておらず、学生は路地で屯しているし、役所や郵便局は開いている。営業が出来ないカフェやレストランも、テイクアウトは出来るので、灯りは消えているが、店の前にはメニューが出され、扉が半分開かれている。知り合いのカフェやレストランはシャッターこそ半分下ろしているけど、窓の隙間から中を覗けば、近所の暇を持て余した連中が集って、暗がりでコーヒー片手に談笑している。行きつけのバーはさらに酷く、ドアには鍵がされ、窓ガラスは戸板で塞がれつつも、ノックすると、隙間から店員が覗き、ぼくだとわかると、扉を開けて、飲んでいくか、と笑顔を向けられる。カウンターには地元の常連が居並び、片手にジョッキ。完全に法律違反だけど、通報でもない限り、警察も一軒一軒チェックは出来ず、パリは水面下でこういう違反者が溢れかえって、むしろ三密は避けられず、感染が逆に拡大しているという悪循環にある。経済を回しながら、感染を抑制することの難しさに直面しているのが現在のフランスと言えるだろう。
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source : 文藝春秋 2021年1月号