news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは女優の米倉涼子さんです。
<この記事のポイント>
▶︎米倉さんは今年4月に27年間所属した事務所から独立してフリーランスに
▶︎面倒見のいい姉御肌のイメージがあるが、実際は頼られるのはちょっと苦手だという
▶︎目の前の障害にぶつかったら、その時に解決していくのが米倉さんらしさ
有働キャスター
27年間在籍した会社から独立した今、思うこと─
有働 ご無沙汰しています。ずっとお会いしたかったので、オンラインではありますが、お目にかかれてうれしいです。4月に個人事務所を立ち上げて新しい道を歩み始めた米倉さんですが、新型コロナウイルス感染症の流行拡大という大変な時期と重なってしまいましたよね。
米倉 そうなんですよ。ちょうど新しいオフィスを整えていた時期だったので、内装などの工事も5月頃までストップしてしまって。その頃は私も仕事がなくて家にこもりきりでした。外食もできなくなったので、信頼できる友人たちと少人数で家で食事とかをしていましたね。
有働 コロナで自粛生活が続くことで、塞ぎこむ人と休めて良かったと思う人がいると思いますが、米倉さんはどちらのタイプでしたか?
米倉 後者ですね。お休みするのは好きな方なので。ただ、休みが続くと顔の方も休んじゃうんですけどね(笑)。
有働 へー、表に出られる方って、そういうものなんですね。
米倉 あとは時間がたっぷりあったので、ベランダでパプリカを自家栽培したりしていました。
有働 パプリカってあの赤や黄色のパプリカ?
米倉 そうそう。他にもオリーブの木を増やしたり、紫色の花をたくさん植えたり、殺風景なベランダが一気に賑やかになりました。
有働 イメージで人を見ちゃいけないのはわかっているのですが、米倉さんがパプリカを育てているって、かなり意外です(笑)。
米倉 ですよね。毎朝水やりをしながら植物の成長具合を観察していると、どんどん愛おしくなってくるんです。自粛期間がなかったらこんなことやらなかったと思うので、自分でも面白いなと思っています。
米倉涼子さん。今年4月に独立
独立を決めた理由
有働 私が今、どうしてもお会いしたいと思っていたのには理由がありまして。米倉さんは個人事務所を立ち上げるまで在籍されていた大手芸能事務所に27年いらっしゃったんですよね。実は私もNHKにいたのが27年なんです。
米倉 同じですね。
有働 そうなんですよ。私の場合、ずっとNHKにお世話になって、そこで輝けるなら輝いて終わるだろうと思っていたのに、急にいろんな気持ちの変化が起きてフリーになりました。米倉さんはどういう心境の変化で独立をご決断されたのか、一度お聞きしてみたかったんです。
米倉 私も有働さんと同じで、ずっと事務所を辞める気はなく骨を埋める気持ちでいました。でも、年をとって臨機応変に対応できるようになった一方で、それ以上に自分の意志を通したい、という頑固さが強くなったことが独立を決めた理由だったように思います。あとはやはり年齢もありますね。一歩踏み出すにはやはりエネルギーが必要なので、40代半ばの今じゃないとできなくなると思いました。有働さんはおいくつで独立されたのですか?
有働 49歳です。私もこれが最後のタイミングだと思いました。私の場合はこのままNHKにいても、精神的にも技術的にも横ばいか落ちていくだけだと思ったんです。大きな組織にいる方がいろんなことは保障されているけれど、いつの間にかその立場に安住し、自分のできる範囲で仕事をしている自分に気づいてしまったんですよね。
米倉 よくわかります。私もだんだんやっている仕事に幅がなくなってきたと感じるようになっていたので。主演ドラマなど大きな仕事をいただくことはもちろんありがたいけれど、何かを新しく生み出している気持ちになれなくなっていました。挑戦って規模の大きさではないんですよね。小さくてもいいから、自分が本当にやってみたいことに挑戦したいという気持ちがだんだん大きくなっていました。大きな会社にいると守られていることも多いけれど、期待されていることも大きいし、頼られることも増えてそれがちょっと重荷だったのもあります。
有働 頼られるのは苦手ですか? 面倒見のいい姉御肌のイメージがありますが、それも演じてらっしゃる役柄のイメージか(笑)。
米倉 組織が大きいと、他の子のためにと頼られる機会も増えるんですが、実際の私は頼られるのはちょっと苦手です。自分に自信が持てないからだと思います。
有働 え? 自信がないなんて、さらに意外です。
米倉 結局、長く仕事をしているうちに、会社がこうあって欲しいと思う米倉のイメージと私自身の思いが食い違ってきたのだろうと思います。でも、前の事務所が嫌いになったわけでは全然ないんです。独立して改めて自分が守られながら仕事をしてきたんだな、ということに思い至ってとても感謝しています。
「フランス映画祭2020横浜」に向けた記者会見にて
©unifrance films
インスタ始めました
有働 それは私も同じですね。ところで、先ほどおっしゃっていた米倉さんがやりたい小さい挑戦って、例えばどんなことですか?
米倉 例えば、先日洋服を作ったこととか。日頃から妹のように親しいモデルのヨンアがディレクターを務めるブランドで、Tシャツやパーカーを作って販売しました。
有働 インスタグラムで拝見しました。
米倉 ありがとうございます。アパレルの企画・販売は初めてだったので、規模は小さくても私としてはまさしく挑戦だったんですよね。大きな会社だとどうしても時間やお金などを考えて仕事を選ばなくてはいけないので、おそらくこういうことはできなかったと思います。
有働 ご自分が本当にやりたいことをやりたかったんですね。
米倉 そうなんです。自分の思いをちゃんと汲んでくれる人たちと一緒にやりたいと思って。届ける範囲も無理することなく、自分にできる範囲の中だけでいいと思って。そういう意味では、インスタもそうです。SNSはずっと苦手だったんですけど、会社が小さくなったことで人と繋がるところが少なくなったので思い切ってやってみようかと思い始めました。自分がいいなと思ったことだけを人にダイレクトに届けられるという意味では、SNSはやっぱり便利だと改めて思いました。
有働 でも、米倉涼子という存在自体がすでに大きいじゃないですか。毎回、主演というポジションにいる人ですから。独立することでスケールダウンするのではないか、という不安はなかったですか?
米倉 そうなったらなったで、それが私のポテンシャルなわけですから仕方がない、と思っていました。
有働 潔いなぁー。私はその覚悟がもてなかったです、正直。NHKを出てから半年くらい自分がやりたかったことをやったり、行ってみたかった場所へ行ったり、好きなことをしていたのですが、途中でふと不安に駆られて「私大丈夫か? 辞めなきゃよかったかも」と焦った時期がありました。
米倉 私も不安はいつもあります。ただ、女優という仕事自体が周りに望まれなくなったら仕事がなくなるという種類のものなので、その不安は大きな会社にいた頃から変わっていないだけです。
ボスの仕事に四苦八苦
有働 今、何が一番大変ですか?
米倉 地盤固めですね。ゼロからのスタートなので。少ないけれどスタッフもいるので、みんなで理解し合い、分かち合いながら積み上げていく作業が一番大変。そういう意味では、会社を立ち上げてすぐコロナで世の中の動きがスローダウンしたことは私にとっては向き合う時間にもなったと思います。
有働 でも、米倉さんはパフォーマーであるわけですから、それだけに集中していられた頃に比べて、差し障りは感じていませんか?
米倉 確かに今まではお芝居をしたり、キレイでいたり、発信したり、という立場だけでしたが、今はみんなをまとめる役割も務めなければならないので大変です。ボスとしての仕事はまだまだだし……。
有働 楽しむ余裕がない?
米倉 楽しくはないです(笑)。でも、これがそのうち熱いものになっていったらうれしいなぁと思っています。いろんな新しい感情が自分の中で生まれてきているのを感じるんですよね。うまくいかな過ぎて家に帰ったら突然、涙が出てきたことも何度かあります。特に税金をはじめお金の管理が大変ですよね。これまでは会社と母に任せていたのですが、自分で管理するようにしたら「あれ? 今月は収入より支出の方が多いじゃん!」とか、頭が痛いことばかりです。
有働 スタッフも抱えているから、責任も出てきますもんね。
米倉 そうなんですよ。だからケチっぽくなりました(笑)。
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source : 文藝春秋 2021年1月号