バイデン次期米大統領は、米国の世界への再関与と同盟重視を新政権の最重要外交課題に掲げている。バイデンは大統領選挙中、トランプ大統領の同盟軽視が米国の国際的な地位と影響力を著しく損なったと厳しく批判してきた。確かに、トランプはEU諸国を貿易上の「敵(foe)」呼ばわりし、米国のNATO脱退を匂わし、ドイツからの米軍撤退を進めるなど、同盟を弱めた。アジア太平洋でも米朝首脳会談の“取引”の邪魔だといわんばかりに米韓合同軍事演習を突如、延期するなど同盟を蔑ろにした。
しかし、バイデンの同盟重視は掛け声倒れに終わるのではないか、と米国の同盟国は不安を抱いている。米国は世界の新型コロナ感染者の4分の1を占めるなど惨憺たる状況に喘いでいる。バイデン政権は何よりもまず、コロナ危機の克服に全力を注がなくてはならない。バイデン政権は、外交より内政を重視せよ、との世論の圧力を無視できない。
より深刻な問題は、米国の統治危機である。コロナ危機は、経済格差と人種差別が健康弱者と教育弱者を構造的に生み出すこと、そして右と左の政治の分断が統治を麻痺させること、を如実に示した。同盟再建にとっての最大の障害は、このような米国の統治の構造的な脆弱性である。先の大統領選挙は、青と赤に完全に真っ2つに割れた。この党派的な大分断状況は今後もかなりの期間、続きそうである。
米国の同盟国の政治指導者は、そのような米国とどのように付き合うべきなのか。彼らは物事を決定しても執行できるのか。今の政権と取引しても4年後に覆されるのではないか……同盟国は対米ヘッジの誘惑を感じるようになるだろう。それは米国と同盟国の戦略的競争相手にとっては同盟にくさびを打ち込む格好の機会となる。
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source : 文藝春秋 2021年2月号