専門家に委ねてはならない「原子力」

新書時評

武田 徹 評論家・専修大学教授
エンタメ 読書
評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。

 菅義偉首相は就任後の所信表明演説で2050年までに脱炭素社会を目指すと述べた。気になるのは実現の方法だ。経済活動の規模を維持しつつ炭素排出量を大幅に減らすには原発の利用が現状では有力な選択肢とならざるをえないが、東日本大震災後、原発に関しては賛否が厳しく対立している。政府は原子力をどう使うつもりなのか。その利用範囲を軍事にまで広げる野心がもしあれば話は安全保障にも及んで更にややこしくなる。

 この際、一度、原理的な地平まで降りて議論を仕切り直すといい。そのために戸谷洋志『原子力の哲学』(集英社新書)が役に立つ。たとえば哲学者カール・ヤスパースは原子力の問題を専門家の「管轄的思考」に委ねず、社会の構成員各々が考える必要があると述べた。確かに影響の及ぶ範囲が時空を超えて大きく広がる原子力の取捨選択の判断は視野の狭い専門家の手に余る。大事なのは情報の欠如や見方の偏りを相互に補いあう「場」を作ること。領域横断的な対話の必要性を主張するハンナ・アーレントやジャック・デリダの言葉が紹介される。

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source : 文藝春秋 2021年3月号

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