幅広い作風で、文学の世界のみならず、老人介護や環境汚染といった問題を提起して、社会的な大ブームも巻き起こした有吉佐和子(ありよしさわこ)(1931―1984)。物怖じしない言動が目立ったが、近い人にしか見せない顔もあった。有吉家と家族ぐるみの付き合いがあった作家・丸川賀世子(まるかわかよこ)氏が回想する。
有吉佐和子といえば「紀ノ川」「華岡青洲の妻」「恍惚の人」「複合汚染」「和宮様御留」等、たちまちいくつかの作品が思い浮かぶ。彼女は昭和の申し子のような作家だったと思う。昭和6年1月20日生まれで、昭和59年8月30日に53歳で亡くなった。余裕をもって、しっかり昭和に収まっているだけに時代の体現者というイメージが強い。
私は彼女と同年同月生まれで、誕生日が6日遅いだけである。当時すでに人気作家だった彼女と、仕事上で知り合って以来、20年にわたる交友が続いた。お互いに終戦時は14歳で、思春期の情感が、殺気だった時代に踏みにじられた世代である。戦災体験と疎開中の暗い記憶が、2人の共感の根源になっていた。彼女を思う時、真っ先に浮かぶのは、その無邪気な笑顔である。威勢がよくて明るくて、その果敢な言動には痛快さがあった。
昭和47年に刊行された「恍惚の人」は、空前のベストセラーになり、彼女はテレビや雑誌で、高齢者福祉や介護問題を取り上げて、鋭い警鐘を鳴らしていた。東京都の美濃部知事に「あなただってね、やがてはおむつの世話になるのよ」と、ずばり言う彼女は、世間の喝采を浴びていた。その一方では、風当たりの強さに悲鳴を上げていた。

そのころ毎晩のように私に電話があった。「叩きつぶしてやるといった悪意の批評はひどくこたえる」「袈裟がけに切られた。満身創痍で、身も心もぼろぼろよ」「胃ケイレンを起こして、七転八倒した。男社会のねたみは凄い。長老から批評家までが、組んでいじめにかかるのよ」と、泣きながら哀訴した。そんな時の彼女は幼女のように頼りなくて、慰めを求めてすがりついてきた。わがままだが可愛げがあって、手を貸さずにはいられなかった。
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source : 文藝春秋 2006年2月号

