日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する。
★スキンヘッドの社長候補
伊藤忠商事は4月1日付で石井敬太専務執行役員が社長最高執行責任者(COO)に昇格する。鈴木善久社長(COO)は代表権のない副会長、岡藤正広会長(CEO)は続投する。鈴木氏は3年で交代となるが、「岡藤さんは鈴木社長に物足りなさを感じていた」(伊藤忠幹部)。
83年入社の石井氏は早稲田卒のラガーマン。化学品部門の出身で、エネルギーや化学品部門のトップを務めており、蓄電池や太陽光発電といった脱炭素に向けた事業に力を入れてきた。
オンライン記者会見で石井新社長は「新しい価値観をつかみ、常識を超えたビジネスモデルを作りたい」と抱負を述べたが、菅政権が推進する脱炭素や再生可能エネルギーの分野は新たな収益の柱として期待がかかる。
一方、早くも次の社長候補として注目されるのが、完全子会社化したファミリーマートの社長に3月1日付で就任する細見研介執行役員だ。石井氏と2歳しか離れていない細見氏は、DX(デジタルトランスフォーメーション)改革を担うエースで、19年7月新設の第8カンパニーでプレジデントを務めている。
ファミマをはじめとする小売り関連のグループ会社を束ねる第8カンパニーは40人の精鋭部隊で、600人の人員を擁する機械カンパニーの半分の利益を叩き出してきた。
細見氏は86年に神戸大学経営学部を卒業し、伊藤忠に入社。岡藤会長と同じ繊維出身でマーケティングにも精通する。
「細見氏は社内で岡藤会長の秘蔵っ子として知られる。スキンヘッドにメガネという関西人ならではのオシャレなスタイルも岡藤さんにそっくりだ」(伊藤忠関係者)
細見氏がファミマの経営の立て直しに成功すれば、伊藤忠に凱旋して本社の社長になる目も十分ある。ただコロナで猛風が吹き荒れるコンビニ業界を泳ぎ切るのは並大抵のことではない。「総合商社出身者が小売りで成功したためしがない」という業界のジンクスを打ち破ることができるか。
★コンビニと商社の関係
三菱商事は垣内威彦社長以下、15人の常務執行役員、33人の執行役員の計49人で構成される4月1日付の執行役員体制を発表し、業界を騒然とさせた。
というのもポスト垣内の有力候補2人が3月末で退任するからだ。筆頭だったのは常務執行役員コンシューマー産業グループCEOの京谷裕氏。同氏は、垣内氏が社長となった16年、54歳の若さで常務執行役員に昇進し、垣内社長と同じ生活産業グループCEOを担ってきた。もう一人の有力候補だった吉田真也常務執行役員コーポレート担当役員兼関西支社長も退任する。吉田氏は小林健前社長時代に経営企画部長を務めていた。
2人に替わって一躍躍り出たのが常務執行役員電力ソリューショングループCEOの中西勝也氏。中西氏は三菱商事と中部電力(林欣吾社長)が20年3月、オランダの電力会社エネコを約5000億円で買収した際の立役者だ。
エネコはAI(人工知能)を使った顧客向けサービスで先進的なノウハウを持ち、欧州でデジタル技術も組み合わせた次世代の家庭用電力ビジネスを目指す。三菱商事・中部電力は、そのノウハウを獲得し日本やアジアでの展開を視野に入れている。
さらに、ここにきて業界3位のローソンの就任5年目の竹増貞信社長が三菱商事に専務として復帰するのではないかとの噂が渦巻く。三菱グループの長老は「ローソンの業績が悪いなかで商事に戻ると、火事場から逃げたと言われかねない」と憂う。
コンビニの争いは、親会社である総合商社にも大きな影響を与えそうだ。
★社長の機嫌が悪いワケ
東芝(車谷暢昭社長)がアクティビスト(物言う株主)の攻勢に晒されている。昨年末、筆頭株主で旧村上ファンドの社員が立ち上げたエフィッシモ・キャピタル・マネジメントと米ファラロン・キャピタルの2社からそれぞれ臨時株主総会の開催を求められた。
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source : 文藝春秋 2021年3月号