日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する
★アップルの“下請け”は
2月上旬、米アップル(ティム・クックCEO)が2020年代半ばに発売予定の自動電気自動車(EV)、「アップルカー」の生産委託先として日本車メーカーに打診したと報道された。
トヨタ自動車(豊田章男社長)はハイブリッド車(HV)の世界最大手で自社のビジネスモデルを脅かしかねないEVの量産には手を貸さないとみられる。かつて米テスラ(イーロン・マスクCEO)と資本業務提携して米国でEVを共同生産したが、ほどなく手を引いている。
EVに積極的な日産自動車(アシュワニ・グプタCOO)は「同社が21年に出すSUV(スポーツ多目的車)タイプのEV『アリア』がアップルEVと競合する」(証券会社のアナリスト)。すでにグプタ氏が否定的なコメントを出している。
三菱自動車(加藤隆雄CEO)は、第1世代の小型EV「i-MiEV」のほかPHVの「アウトランダーPHEV」を生産しておりEVのノウハウはある。アップルが委託生産を任せるに足る技術を持ったメーカーの一つだ。「アップルが設備投資をしてくれるならば可能性はある」(三菱グループ首脳)という。
もっとも可能性が高いとみられるのがマツダ(丸本明社長兼CEO)だ。
「デザイン性の高いクルマづくりで知られ、アップルEVのボディーメーカーの有力候補。他社が生産したEVの車台に自社製のボディーを乗せて完成車にするノックダウン方式ならやるかもしれない」(自動車評論家)
マツダは米国に工場を建設中で、アップルEVを作るのに好都合との事情もある。
「生産コストが安く電池供給も安定している中国メーカーに車台を、マツダにボディーと最終組み立てを委託する国際分業であれば十分に可能だ」(別の自動車メーカー首脳)
アップルEVが成功すれば、日本メーカーが得意とするHVやガソリン車の市場の縮小が一気に進む。アップルカーがiPhoneと同様のブランディングとなれば前面に出るのは「アップル」ブランドのみ。組み立てをする“下請け”企業のメリットは限られる。
それでも「貧して鈍した」日本メーカーが手を挙げるシナリオは十分に考えられる。
★トップ人事に滲む深謀遠慮
みずほフィナンシャルグループ(FG)が4月1日付の首脳人事を発表した。みずほ銀行頭取に加藤勝彦常務執行役員が昇格。同時にみずほ証券の社長に浜本吉郎常務執行役員が就く。現頭取の藤原弘治氏は代表権をもたない会長となり、証券の飯田浩一社長は、新会社「みずほリサーチ&テクノロジーズ」の会長となる。
加藤氏は名古屋市出身で、1988年に慶大商学部を卒業し、旧富士銀行に入行。30歳代に経営企画部で全銀協に出向するなど本部経験があるが、15年にわたりアジア4カ国に駐在した国際派だ。国内営業も8年間経験している。就任会見では「歴代で最も現場の経験が長い」と自信をのぞかせた。
加藤氏の頭取昇格は指名委員会(甲斐中辰夫委員長)による人選だが、このタイミングでの頭取交代にはFGの佐藤康博会長の意向が反映されている。「佐藤会長はFG社長時代にグループ会社の社長は最長4年、会長は2年で交代する暗黙のルールを敷いた。関連会社の役員人事も含め新陳代謝を促すための布石」(OB)とされる。藤原頭取が4年で会長に退くのはこのルールを踏襲した形だ。
また「第一勧銀出身の藤原氏の次に富士銀出身の加藤氏が頭取に就くのは偶然。旧行のたすき掛け人事ではない」と関係者は強調する。それは、みずほ発足以降の入行者が過半を占めるなか、旧行を意識した人事では中堅・若手がついてこないからだ。一方でアジアの拠点経験者がエリートコースになりつつあるという。
「安原貴彦副頭取などもアジア経験が豊富だが、日系企業の主戦場となったアジア経済の話ができなければ取引先との親交も図れない。加藤氏も直近、名古屋営業部長、営業担当エリア長として取引先の開拓に奔走したが、ここでもアジア勤務の経験が生きた」(同行関係者)
FGの佐藤会長と坂井辰史社長は続投。4年目の坂井氏は全銀協会長に就く。一方、佐藤氏は会長になって2年が過ぎたが、経団連会長ポストに意欲を持っているともっぱらの評判だ。経団連副会長の佐藤氏が会長の座を狙うには現役続行の必要があった。
★帰ってきたホリエモン
あの事件から15年ぶりにホリエモンこと堀江貴文氏が上場企業に帰ってきた。
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source : 文藝春秋 2021年4月号