評者は、若手のビジネスパーソンから勉強法について相談されることがよくあるが、その半数以上が数学の勉強法に関してだ。文科系だけでなく、理科系の学部出身の人でも数学に苦手意識を抱いている人が少なからずいる。
また、大学生でも数学ができないと社会に出てから取り残されるのではないかという形而上的不安を抱いている人がいる。確かに新聞のこんな記事を読むと数学の知識が収入に直結しているとの印象を受ける。
〈大和証券は4月から従業員に転職市場での価値に応じた報酬を払う仕組みを導入する。デリバティブ(金融派生商品)のトレーダーといった数学などの高度な知識と能力を必要とする人材が対象で、2030年度までに500人程度まで広げる。(略)/株式や債券などを自己資金で売買する部門、IT関連部門を対象とする。幅広い金融商品や数学の知識が必要とされ、数学や物理学の修士や博士課程を修了している人もいる。/コンサルティング会社などを通じ、転職市場での人材価値を精査する。市場動向に合わせて引き上げたり、下げたりする。年収は対象社員の能力と合わせて決める。市場での価値が高くても成果が低い場合は年収も低くなり、価値が低くても成果を出した場合は価値より高い年収を払う。自己売買部門のトレーダーは能力次第で5000万円を支払う。/21年度から高度専門職を対象にジョブ型雇用を導入する一環となる。ジョブ型雇用では業務内容に応じて賃金を決めるが、市場価格に連動して上下するのは珍しい。22年4月入社の新卒採用でも初任給40万円以上の採用枠を設定、30年度までに全従業員の5%にあたる500人程度に増やす。一定期間、期待した成果を出せない場合は通常の給与形態の総合職に戻す〉(日本経済新聞電子版、3月3日)
もっとも一級のトレーダーは、知識と努力だけでなれる職業ではない。医師、通訳、弁護士、外交官など、高度に専門的な職業でトップクラスの成功を収めるためには、天賦の才能が必要とされる。
数学の「技法」より「考え方」
ビジネスパーソンにとって必要となる数学の知識は、難解な技法ではなく、数学の考え方を知ることだ。東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕教授は、中学数学の範囲で数学の考え方を誰にでも理解できる作品にまとめた。本書の執筆支援と編集にあたった郷和貴氏の腕も見事だ。序文で郷氏はこう述べる。
〈僕は「数学アレルギー」をこじらせて、今まで数学をできるだけ避けてきた人間だ。教科書を買えば学び直しはできるはずだけど、そんな気持ちにもならなかった。/でも一方で、普段仕事で経営者や経済学者の話を聞くときに、自分の数学的知識の欠如を嘆く場面もよくあるし、まだ小さい僕の娘にはしっかり理系の知識を身に付けさせたいと思っている。……思ってはいるけど、正直、将来宿題を手伝える自信もない〉
同様の悩みを抱えている読者も少なくないと思う。本書は、中学数学の全体像を5日でつかみ、6日目は、中学数学の枠外であるが、社会人にとって重要になる微分・積分について解説する。
1日目「僕たちは、なぜ数学を勉強するのか?」で西成氏は、〈そもそも数学の大きな目的の一つは、世の中の課題を解決することですから〉と述べる。その後は、2日目「中学数学を最速・最短で学ぶ」、3日目「いきなり! 中学数学の頂点『二次方程式』をマスターする!!」、4日目「サクッと理解! 中学数学の『関数』をマスターする!!」、5日目「余裕で! 中学数学の『図形』をマスターする!!」と続く。これで中学数学で何を学ぶかの概要がわかるので、後は芳沢光雄『新体系・中学数学の教科書』(上下2分冊、講談社ブルーバックス)、『生き抜くための中学数学』(日本図書センター)などの社会人の学び直しを考慮した本で、演習問題を解きながら学ぶとよい。
6日目「〈特別授業〉数学の最高峰『微分積分』を体験してみる!!」では、こんな説明をしている。
〈特に大事なのが微分の概念なので、その説明からいきましょう。まず、「解析」と言っても人によってどんなイメージを持つかは違うかもしれないですけど、数学的に言うと「細かく分けて調べること」なんです。大雑把に調べるのではなく、細かく分けたものを調べる。それが微分〉
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source : 文藝春秋 2021年5月号