NHKメルトダウン取材班「福島第一原発事故の『真実』」

文春BOOK倶楽部

池上 彰 ジャーナリスト
エンタメ 読書

情報を更新することの大切さ

 大きな事件や事故が起きたときに当初報道された内容が衝撃的だと、その後新しい事実がわかっても、当初の印象が更新されないままになってしまう。

 この本は、そのことに気づかせてくれます。東日本大震災から10年。この間、NHKは、NHKスペシャルなどで事故の実態解明や事故処理の問題点などを報道してきました。その番組づくりに携わってきたスタッフが、取材をまとめた集大成が、この本です。その分量の膨大さ。「完全保存版」というキャッチフレーズは出版社がつけたのでしょうが、あのとき何が起きていたのかを振り返るには絶好です。

 たとえば全電源が喪失して、原子炉の冷却ができなくなったとき、現場では1号機への海水の注入を始めますが、総理官邸の介入を受けた東京電力本店が注入を中止するように命じます。このとき現場の吉田昌郎所長は一芝居打ちました。海水の注入を止めたら原子炉の冷却ができなくなると考え、本店向けには海水注入を止めると宣言する一方、絶対に止めてはダメだと現場に小声で伝えたのです。

「事故後、この顛末が明らかにされると、1号機の事態悪化を食い止めた英断だと、日本中が吉田に喝采を送った。(中略)海水注入騒動は、吉田の名を一躍あげた。しかし、事故から5年半がたった2016年9月、思わぬ後日譚が明らかにされた」というのです。

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source : 文藝春秋 2021年5月号

genre : エンタメ 読書