AI搭載の人工親友が導く歪んだ世界
カズオ・イシグロの6年ぶりの新作『クララとお日さま』は、ノーベル文学賞受賞後の第1作ということもあり、世界同時発売されて話題を集めている。
シンプルなタイトルは童話めいた印象を与える。ショーウィンドーに並ぶクララに目を止めたジョジー。からだの弱いジョジーの遊び相手として彼女の家に買われていったクララは、ジョジーのいちばんの理解者になろうとつとめる……。
あらすじを書けば、それこそ童話じゃないかと思われそうだがそうではない。語り手のクララはもの言わぬ人形ではなく、最新のAI(人工知能)をそなえた、太陽光によって動く人体型のロボット(AF)である。
AFが人工親友(Artificial Friends)だというのは種明かしされるが、「オブロン端末」や「クーティングズ・マシン」といった耳慣れない言葉が説明なく使われる。「オブロン端末」はスマートフォンやタブレットだと想像がつくが、クーティングズ・マシンは、道路工事に使われる排気ガスを出す機械であることぐらいしかわからない。
これは作者の不親切……ではもちろんなくて、AFのクララが初めて世界を見るように、読者の前の世界もひろがっていく。未知の環境を前にしたとき、クララの視界はいくつかのボックスに分割され意味をなさなくなることがあるのだが、そうした認知のゆがみまでも、文章の力で読者に体験させようとする。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2021年5月号