文・石山蓮華(電線愛好家・文筆家・俳優)
1992年生まれ。埼玉県出身。10 歳より芸能活動を開始。電線愛好家としてテレビ番組や、ラジオ、イベントなどに出演するほか、日本電線工業会「電線の日」スペシャルコンテンツ監修、オリジナルDVD『電線礼讃』プロデュース・出演を務める。主な出演に映画『思い出のマーニー』、短編映画『私たちの過ごした8年間は何だったんだろうね』(主演)、舞台『五反田怪団』、『遠野物語- 奇ッ怪 其ノ参-』、『それでも笑えれば』、NTV「ZIP!」など。
文筆家として「Rolling Stone Japan」「月刊電設資材」「電気新聞」「ウェブ平凡」「She is」「母の友」「週刊朝日」などに連載・寄稿。
6月3日に読書とジェンダーと犬をテーマにした初のエッセイ集「犬もどき読書日記」(晶文社)を刊行。
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先日、大学時代の軽音サークルで一緒だった友人の結婚披露宴があった。昨年予定されていた式は1年の延期を経て、東京駅からすぐ近くのジャズクラブで開かれた。
緊急事態宣言の影響でお酒は飲めないし、時間も短くしなくてはいけないので、新郎新婦のふたりは予定されていた内容のいくつかを変更したそうだ。それでも、とても良い時間だった。しらふでいても結婚式が楽しいだなんて、こんなことでもなければ一生知らなかっただろう。つい「またやってよ」と言いたくなったけれど、結婚式は一生に一度の方がいいのかもしれないと思って口をつぐんだ。
感染症対策は、高砂の新郎新婦を囲んだ記念撮影にも小さな影響を与えていた。式場の人が出席者のカメラやスマートフォンを預かって撮影できなくなっていたのだ。そこで、出席者同士が代わる代わる写真を撮りあった。
私は学生時代、軽音サークルにいた同級生と付き合っていた。もう、10年以上前のことである。彼とはわだかまることもなく、会えば普通に挨拶をする仲だ。集合写真を撮るために彼からiPhoneを預かったとき、彼はなんの気なしに「昔から電柱撮ってたね」とつぶやいた。私は黒いiPhoneを右手に持ったまま「ん?」と言った。
私が電柱を撮っていたことはない。撮っていたのは、電線だ。
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source : 文藝春秋 2021年7月号