父の絵日記

巻頭随筆

矢部 太郎 芸人・作家
エンタメ 芸能 読書

「めちゃくちゃの大冒険」。それが僕が6歳の時に生まれてはじめて作った紙芝居のタイトルです。絵も文章も僕が考えました。「めちゃくちゃ」の後に「の」を繋げる。日本語の使い方としても、めちゃくちゃですね。6歳の自由を感じます。

 僕の父は絵本・紙芝居作家で、いつも自宅で作業していました。そんな父に教えてもらいながら見よう見まねで描いた記憶があります。作者の表記も、

 さく・え やべたろう

 きょうりょく・やべみつのりとなっています。

 舞台は動物保育園、動物の子供たちがお泊まり保育をしています。晩御飯のカレーを大きな鍋で煮込んで、蓋を開けると……中から怪獣の子供が飛び出してきてみんなびっくり! 逃げ出しそうになりますが、怪獣の子供がこう言います。「おなかすいたよ~」。動物の子供たちも「おなかすいた!」。みんなで仲良くカレーを食べて、めでたし、めでたしとなるお話でした。

 40年近く前に作っためちゃくちゃなもののことをなぜこんなに覚えているのかというと、今も父が捨てずに取っておいてくれて僕の手元にあるからなんです。この紙芝居だけでなく、僕が描いた絵や当時作っていた新聞など、ものすごい量のものを捨てずに父は取っておいてくれているんです。

 実際のところ、父はとにかくなんでも「捨てない人」なんです。こんまりメソッドで言うと全てに「ときめき」を感じてしまう人なんだと思います。

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source : 文藝春秋 2021年8月号

genre : エンタメ 芸能 読書