なんにせよスポーツについて考える機会の多い夏だったが、私は先日、野球選手を目指す小学6年生という設定で、一人の少女をテレビCMに起用した。
同級生が中学受験に備えて塾に通ったり夜遅くまで勉強するのをよそに、プロを目指してひたすら練習している。父親は娘の夢を応援しつつ、現実は甘くないと内心葛藤している——父が放り上げる球を、少女のバットが鋭くミートする場面を書いた。これをごまかしなしにやれるのは、野球経験のある子しかいない。
けれど子役のオーディションは骨が折れるのだ。彼らの多くはまだ実績も技術もない。天性の勘、魅力、理解力の伸びしろを、私たちがゼロから見極めなければならない。そして彼らは予想外に成長もする。台本のト書きさえ読めなかった子が、2度、3度やる内に異様な速度で感覚を掴むこともあるし、確実だと思っていた子が突然固まってしまうことも。大人の俳優なら7、8人も会えば目処が立つが、子供の場合は50人、多い時には数百人……樹海を彷徨う気持ちだ。
輝く石は簡単には見つからない。さらに野球経験者——ああ、これでまた何週も土日返上だ……と思っていたら、「いました!」といきなり朗報が入った。撮影に参加してくれるボーイズリーグのチームと交渉していたところ、「今は中1でOGですが、去年までエースで4番を務めていた逸材が」と一人の少女を推薦されたのだ。試合中に撮られたらしき、美しいバッティングフォームとマウンドでの投球の瞬間の写真を見せられて、私は誰かと恋に落ちる瞬間を思い出した。
「彼女自身は、出てもいいと言ってくれてるんですか?」
「チームコーチをしているお父さんが実は元俳優で、本人も、興味があると」
決定だ。演技経験なんかいらない。このスウィングに勝る説得力はない。何てツイてるんだ。交通事故に気をつけなきゃ。
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source : 文藝春秋 2021年10月号