「沖縄の歌姫」が歩んできた光と影を辿る
沖縄本島・那覇。南国の日差しは灼熱のきびしさで、坂道の多い首里城の石畳を行くと、遠雷が響くようにジェット機の轟音が遠くにこだまする。ひとりの少女がこの街で生まれ育ち、スターになることを夢見てこの道を延々と歩いた。丘を越えて行けば、コバルトブルーの海原が広がり、抜けるほどの青い空に入道雲が浮かぶ。少女はおそらく海の向こうに、見果てぬ夢を思い描いていたにちがいない。
2018年9月16日、安室奈美恵が引退する――。
彼女が最後を飾るのに選んだのは、沖縄の地だった。引退当日、沖縄県宜野湾市で安室奈美恵を応援するイベントが開催されるが、その前夜祭に彼女がライブ出演することが発表された。国民的歌姫として君臨し、沖縄を代表するスターの彼女だが、「生まれ故郷でありながら、遠ざけてきた沖縄の地」で有終の美を飾ることになった。旧知の音楽プロデューサーが語る。
「安室は一時期、沖縄でライブをすることを意識的に避けていました。昨年、25周年のライブを沖縄でやったときには、それが大ニュースになったほどでした。ただ引退発表以降、沖縄との結びつきが目立ちます。8月8日に亡くなった翁長雄志知事に追悼コメントを寄せ、その言葉からも彼女が沖縄に特別な思いを持っていることがひしひしと伝わってきました。今年5月には沖縄県民栄誉賞も授与されています。
9月の前夜祭は有料ライブですが、最終日の無料イベントにサプライズ出演し、沖縄からメッセージを送る形でフィナーレを飾るとしたら、歴史に残るイベントとなります」
安室奈美恵を語るのに沖縄という地は避けて通れない。彼女は沖縄でどのような幼少期を過ごしたのか。なぜ一時期、故郷である沖縄を避けていたのか。そして、いかにして「沖縄が生んだ歌姫」として国民的スターに上り詰めたのだろうか。彼女の足跡を辿り、多くの人々を惹きつけてきた魅力に迫りたい。
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source : 文藝春秋 2018年10月号