吉田輝星を生んだ金足農「34年の絆」

秋田の公立校が甲子園で奇跡を起こすまで

中村 計 ノンフィクションライター
エンタメ スポーツ
吉田輝星投手 ©文藝春秋

 初回、投球練習を終えると、プレートの後ろで、背中を向け、右ひざを突いた。

 秋田代表の金足農業のエース・吉田輝星が初回、6回、9回と、投球に入る前に見せる恒例の「儀式」だった。

 吉田に呼応するように、センターの大友朝陽も同じ姿勢を取る。そして、同時に、腰の位置にあった右こぶしを顔の前に掲げた。刀を抜く仕草だ。移動中のバスの中などで興じていた侍ゲームの中の振りの1つ、「シャキーン」のポーズだという。

 吉田はいたずらな笑顔を浮かべて言った。

「試合の感じできばって行くと、いいパフォーマンスを発揮できない。自分も楽しい(のが好きな)方の人間なので、遊び感覚ですね」

 8月21日、第100回全国高校野球選手権大会決勝。1回裏に吉田が抜刀した瞬間、4万5000人の観客で埋まったスタンドがどっと沸いた。スポーツ新聞等で何度も報道されていたため、観客もその瞬間を見逃すまいとしていたのだろう。

 じつは、準決勝の日大三戦は、腹の前で軽く拳をつくっただけで、上には掲げなかった。吉田は、その理由をこう明かす。

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source : 文藝春秋 2018年10月号

genre : エンタメ スポーツ