初回、投球練習を終えると、プレートの後ろで、背中を向け、右ひざを突いた。
秋田代表の金足農業のエース・吉田輝星が初回、6回、9回と、投球に入る前に見せる恒例の「儀式」だった。
吉田に呼応するように、センターの大友朝陽も同じ姿勢を取る。そして、同時に、腰の位置にあった右こぶしを顔の前に掲げた。刀を抜く仕草だ。移動中のバスの中などで興じていた侍ゲームの中の振りの1つ、「シャキーン」のポーズだという。
吉田はいたずらな笑顔を浮かべて言った。
「試合の感じできばって行くと、いいパフォーマンスを発揮できない。自分も楽しい(のが好きな)方の人間なので、遊び感覚ですね」
8月21日、第100回全国高校野球選手権大会決勝。1回裏に吉田が抜刀した瞬間、4万5000人の観客で埋まったスタンドがどっと沸いた。スポーツ新聞等で何度も報道されていたため、観客もその瞬間を見逃すまいとしていたのだろう。
じつは、準決勝の日大三戦は、腹の前で軽く拳をつくっただけで、上には掲げなかった。吉田は、その理由をこう明かす。
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source : 文藝春秋 2018年10月号