新聞エンマ帖

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★「誤報」の落とし前をつけろ

 新聞が特報風に書くことはまず間違いと疑ってかかる方が安全だ。うっかり真実と信じ込むと、後で馬鹿を見るのは読者の方である。そんな自己防衛策を講じなければならないほど、わけても政治報道における最近の誤報ぶりは酷い。

 例えば、岸田文雄新首相の最初の仕事だった組閣人事と衆院選の投開票日の決定を巡る報道である。典型的な誤報を3例挙げると——。

・「自民党の岸田文雄総裁は萩生田光一文科相を官房長官に充てる方針を固めた」(朝日新聞デジタルの速報、9月30日夕)

・「自民党の岸田文雄総裁は30日、事務担当の官房副長官に北村滋前国家安全保障局長(64)を起用する検討に入った。……(北村氏は)安倍晋三前首相の側近として知られる」(毎日、10月1日朝刊)

・「14日解散 来月7日総選挙 26日公示 岸田氏、意向固める」(読売、2日朝刊の1面主見出し)

 ご存知の通り、真実は違った。官房長官は同じ安倍氏の所属する細田派でも松野博一氏になり、官房副長官は同じ警察庁出身でも栗生俊一元警察庁長官が起用された。萩生田氏が安倍氏の最側近なのは周知の事実であり、朝日、毎日が打った岸田氏の「安倍忖度人事」報道は根本から間違っていたことになる。

 総選挙の期日に至っては、読売だけを責められない。「有力」など見出しに濃淡の差はあれど、ほぼ全紙そろって打ち間違い、政権の正式発足と同時に10月31日投開票が決まった。

 ここまで見誤ったのだから、最低限でも、岸田首相の「本心」が何だったかを検証する責任があると思うが、ただ周辺情報を並べて「練り直しになった」などと書くばかり。萩生田氏のブログによれば、朝日は政治部長が「謝罪」に来たそうだが、内々の手打ちより紙面での説明責任の方が大事だと思わないのか。

 しかも、誤報続きのうえ、岸田人事の政局的な意味そのものまで混乱をきたすとなると、もはや何を信じればいいのか分からなくなる。読売が1日朝刊で「岸田氏『3A』が後ろ盾 安倍・麻生・甘利氏 党人事 新政権 安定化狙う」と謳い、日経は5日朝刊で「岸田体制『3A』不協和音 安倍氏 要望通らず不満」と掲げた。真逆の見出しのどの辺に真実は宿るのだろう。

 総選挙に際し「安倍・麻生支配」や国会審議を無視した選挙の「前倒し」を叩く以上は、根拠となる事実の確認くらいは疎かにしないでもらいたい。

 もっとも、こうした書き飛ばしとマッチポンプが当世風なのかもしれない。自民党総裁選の際も、真面目に新聞を読んだ人ほど、小泉進次郎、石破茂両氏との「小石河連合」により「国民的人気の高い」河野太郎氏が優勢だと思い、自民党の派閥政治もついに終わるかと信じたはずだ。

 何のことはない、ちゃっかり派閥の力で岸田氏が圧勝したが、新聞は見立て違いを反省せぬまま、平然と派閥政治を叩いて済ませる。楽な商売である。

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岸田首相

★情勢調査は「辻占」なのか

「国民的人気」もあてにならなかったが、各紙の世論調査で今回もうひとつ奇妙奇天烈だったのが「ご祝儀相場」とかいう新聞用語である。

 要は岸田内閣の発足時の内閣支持率が菅義偉前政権をはじめ歴代内閣と比べて低かったというだけの話なのだが、それをこぞって「内閣支持『ご祝儀』限定的 与党、衆院選へ不安」(8日配信、時事通信)と評するのである。

 だが、時事通信が引く朝日の世論調査でも、確かに内閣支持率は45%と低いとはいえ、不支持率は20%で、何よりも「その他・答えない」とした態度保留者が35%もいるのだ。コロナ対応と首相交代の大混乱のあと、何も実績を挙げていない新政権への反応としては、至極真っ当な数字だろう。

 政権が代われば当然「ご祝儀」が出るという新聞の思い込みの方がそもそも古過ぎるし、その前提で新政権を腐すのはマッチポンプも甚だしい。

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source : 文藝春秋 2021年12月号

genre : ニュース オピニオン