読み継ぎながら私が探りたいのは、“日本をつくってきたのはどういうひとたちか”ということ。その前提を踏まえ、まず宮本常一『忘れられた日本人』を挙げたい。宮本常一は昭和14年から全国津々浦々を歩いて常民の語りに耳を傾け、つぶさに記録した。本書に集積されるのは、西日本の村々に生きる古老の言葉と営み。明治・大正・昭和を通じ、日本人はこのようにして社会を形成、文化を継承してきた。そのなまなましいありさまによって、読む者は日本人の源流に引き戻される。あるいは、石牟礼道子『苦海浄土』。水俣病の現実を直視し、声なき声をあますところなく掬って昇華する石牟礼文学には、人間の尊厳がもうもうと狼煙を上げている。戦記文学として、最前線の戦地ビルマに送られた軍医詩人、丸山豊『月白の道』も忘れがたい。
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source : 文藝春秋 2022年1月号