「スマホゲーム依存症」が若者の脳を破壊する

樋口 進 医師・久里浜医療センター院長
ライフ 医療

患者は平均19歳。これはWHOが認めた脳の病気です(取材・構成・大場真代)

大きく市場を拡大するスマホゲーム ©iStock

 電車に乗って周囲を見渡せば、ほとんどの人がスマートフォン(スマホ)を手にしているのを見かけます。その目は画面から片時も離れず、指先は忙しそうに液晶画面をタップしています。電車の中だけでなく、飲食店や観光地、街のあらゆる場所で一心不乱にスマホを操作している光景はよく見られるようになりました。携帯電話やPHS、スマホなどモバイル端末全体の世帯普及率は、94.7%、個人保有率は、83.6%と、ほとんどの人が1人1台、なんらかの情報通信機器を持つようになっています。その中でもスマホの世帯保有率は、2010年には10%ほどだったのが、2012年には49.5%とほぼ半数、2016年には71.8%(総務省「平成29年版情報通信白書」)と、大幅に増えており、今や私たちの生活に欠かせないものとなりました。

 スマホでは、インターネットでニュースをチェックしたり、SNSやショッピングを楽しんだり、様々なことが小さな1台でできますが、その中でも大きく市場を拡大しているのが、スマホゲームです。2011年度には480億円だったのが、2017年度にはその20倍の9600億円(予測値)と1兆円にも届く勢いを見せています(矢野経済研究所「スマホゲームの市場動向と将来性分析2016、2017」)。

 もともとパソコンで人気となっていたオンラインゲームは、スマホの普及とともにさらに広がりを見せています。近年では複数のプレイヤーで対戦するネットゲームをeスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)と呼び、スポーツ競技として捉える動きも生まれています。国際サッカー連盟(FIFA)が主催する世界大会が開催されたり、オリンピックでの採用が検討されるなど、オンラインゲームは、全世界で広く普及してきています。

 こうした中、問題となっているのがゲーム依存症(ゲーム障害)です。世界保健機関(WHO)による、病気の世界的統一基準である国際疾病分類(ICD)の最新版「ICD-11」に「ゲーム障害(Gaming disorder)」が追加されることが決まりました。2019年5月の世界保健総会で採択された後、正式に「疾病」として指定されます。

271万人が依存傾向

 1963年に国内で初めてのアルコール依存症専門病棟を設け、それ以後様々な依存症治療を行ってきた独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの院長である樋口進氏。アルコール依存やインターネット依存などの予防や治療、研究などを専門とする依存症の権威で、アルコール耐性を簡便に調べることができる「エタノールパッチテスト」の考案者でもある。厚生労働省アルコール健康障害対策関係者会議会長、同省依存検討会座長、国際アルコール医学生物学会(ISBRA)理事長、国際嗜癖医学会(ISAM)理事などを務めてきた中で、インターネット依存の問題に直面し、2011年、同院に国内初のネット依存外来(ネット依存治療部門:TIAR)を設置した。

 厚生労働省の科学研究班で、2003年から5年ごとに、アルコール依存症や多量飲酒者数の推計などを行うため、成人の飲酒実態に関する調査を行ってきました。2008年の調査の際に、インターネット依存に関する調査も同時に行ったところ、成人の271万人がネット依存傾向にあることがわかり、2011年に外来を設置するに至りました。その後、ネット依存外来では、年間延べ1500人ほどの患者を診察していますが、そのうち実に9割もの人がゲーム依存症で受診しています。

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source : 文藝春秋 2018年09月号

genre : ライフ 医療