哲学者・梅原猛(1925~2019)は、日本古代史などの分野で大胆な仮説を数多く展開した。山折哲雄氏がその多才さを振り返る。
山折氏
梅原さんは聖徳太子の霊に魅入られ、柿本人麻呂の背中に乗って、異界をめざして天駆けた。右や左からの非難や講壇アカデミーからの悪口を飛びこえ、国民の心をわしづかみにして語りつづける哲学者だった。
装飾古墳の美にとり憑かれ、縄文からアイヌ文化、西田幾多郎をへて仏教の森をかけめぐり、ニーチェ、ハイデッガーを遍歴し、最後にデカルトに的をしぼって、西洋文明の心臓部を撃ちつづけた。返す刀でスーパー歌舞伎や能狂言の創作に打ち込むかたわら、この国の政治と歴史をつらぬくルサンチマンに着目して独自の怨霊史観を刻みだした。国民的な論争になった「脳死は死か」では真っ向から反対する立場を崩さず、3・11の大災害では、これを「文明災」と呼んで、「近代」の根幹にゆさぶりをかけつづけた。
梅原猛
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source : 文藝春秋 2022年1月号