立川談志(1936~2011)は、いかにして型破りな落語の名人となりえたのか。弟子の談春氏はそこに「持ったが病」と「時代」を見る。
立川談春さん
談志最晩年のエピソード。友人と連れ立って街歩き。「どうだい、ひとつハンバーガーってモンを喰ってみようじゃねェか」。飲み物も買って近所の公園のベンチで食べるという約束でエスカレーターを降りると下から昇ってきた御婦人達が談志に気がついた。途端に談志は包み紙を破るとハンバーガーをムシャムシャ喰べだしたそうな。婦人達は驚いたが、最後には吹き出してウケた。「ああいう行為が伝説を作ると思ってるんだろうな。芸人の業だな」。
己れをどう見せるか、立川談志としての正しい行動を常に考えている人だった。その結果気がつくといつも逆境に身を置いていた。
好んだわけでもあるまいに。
立川談志
性格という名の「持ったが病」ゆえなのか。苛烈なまでの闘争心と自負心を持った人だった。洗練された古典落語に更に己れをブチ込まないと我慢ならない人だった。創っては壊し、壊しては創る生き様は多くの他者の共感を呼んだが、没後10年を過ぎたいま思う。もしも落語が娯楽の真ん中に位置していて観客の圧倒的多数が名人を求める時代に談志が生まれていたら、立川談志は名人として治まっていられたのだろうか。
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source : 文藝春秋 2022年1月号