劇団「天井桟敷」や映画制作などで、前衛的な作品を数多く残した寺山修司(1935~1983)。同時代を並走した麿赤兒氏が秘話を語る。
麿赤兒氏
私が寺山さんに最も“近づいた”瞬間は、「天井桟敷」と私が所属していた唐十郎率いる「状況劇場」との乱闘事件のときです。1969年、私たちが渋谷の金王八幡宮でテントを張って公演をしたとき、寺山さんから葬式用の花輪が贈られたことがありました。当時の私たちには意味が分からず、酒の勢いもあって天井桟敷の稽古場まで押しかけました。芝居終わりのひどいメイクのまま、「寺山、出てこい!」と叫び、戸を蹴飛ばしていたら、天井桟敷の男たちが飛び出てきて、両団員入り乱れての乱闘になった。騒ぎを聞きつけてその場に現れた寺山さんを見つけた私は、胸倉を掴みブロック塀に押し付けました。右手を振り上げると、寺山さんはかわいらしい、きょとんとした顔をして「マロくん、ドシタノ?」と。殴るに殴れず、背後の塀に右手を叩きつけました。結局、寺山さんも唐も含めて全員が警察に連行されて留置場で一晩を過ごしました。警察に捕まるのは慣れっこですが、今でもあの顔は忘れられない。その後、寺山さんと唐は路上劇だと言い張って聴取を乗り切った(笑)。あの事件以来、寺山さんと唐の不仲を疑う人もいますが、実は、唐は年上で早くして成功した寺山さんを尊敬していました。後年、本人から聞いた話では唐は駆け出しの頃、自分が書いた戯曲を寺山さんに送って添削してもらったこともあるそうです。
寺山修司
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source : 文藝春秋 2022年1月号