日本における文芸批評の祖とされる小林秀雄(1902~1983)。その小林と白洲次郎を祖父に持つ白洲信哉氏が幼き日の思い出を綴る。
白洲氏
昭和58年(1983)3月1日、僕が高校3年に上がる春に小林秀雄は亡くなった。日本の近代批評を確立したと言われる小林だが、孫との会話に特別なことはなく、小林の住む鎌倉に越してからも、外食(多くはフランス料理)や、お正月は湯河原の温泉宿にと、やはり特段のことはない。ただ、単なる家族旅行ではなく、今日出海さんや水上勉さん、文藝春秋の社長だった上林吾郎さん他多数知人が同宿で、僕の楽しみは各自のお年玉だった。ちなみに小林より水上先生の方が沢山だった。
小学3年になり僕が将棋を始め夢中になっていると、小林より強かった永井龍男先生のお宅へ。「孫の相手になってくれ」と、小林はさっさと帰ってしまうのだが、永井先生より強くなると、プロとも交流があったY社長を紹介してくれるなど、祖父母たちは、僕が興味を持ったことを応援してくれた。が、こうした生前の出来事より、亡くなってからの付き合いが僕は濃密だ。小林秀雄生誕100年記念展の企画をはじめ、折々小林に触れ、昨今も文庫の解説依頼があったりしている。何より僕の中で特段なのは日々の晩酌である。
小林秀雄
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source : 文藝春秋 2022年1月号