★沈黙は金、雄弁は銀
財務省トップ人事は混乱の末、本流のエースである岡本薫明(しげあき)事務次官(昭和58年、旧大蔵省入省)で決着した。当初、文書改竄問題とセクハラ問題の2大不祥事を受けて、任命権者である麻生太郎副総理・財務相は「変化」を印象づけるため、主計畑の経験がない浅川雅嗣財務官(56年)の起用を模索。浅川氏も周辺に意欲を漏らし、史上初の財務官からの次官就任が実現寸前までいった。
それをひっくり返したのは、杉田和博官房副長官兼内閣人事局長(41年、警察庁)を中心とする首相官邸である。「これ以上秩序を壊すと、財務省の組織そのものが崩壊してしまう」という危機感からだった。杉田副長官は菅義偉(よしひで)官房長官とも連携して、「岡本次官」への立て直しに動いた。安倍晋三首相は成り行きを見守り、慎重居士の岡本氏はこの間、浅川氏とは対照的に口をつぐんだ。
この沈黙が象徴する「安全運転」が岡本氏の真骨頂だ。勝栄二郎元事務次官(50年、旧大蔵省)に引き立てられて一気に同期のトップに立つも、これまで派手な政治行動は謹んできた。向こう1年の財務省は、来年10月の消費税増税を控えて徹頭徹尾「守り」の姿勢を強いられる。官邸側には、岡本氏が最適任との判断もあったのである。
次官が内定した後、主計局長人事でもちょっとしたさや当てがあった。麻生氏周辺では総括審議官だった可部哲生氏(60年)の昇格や主計局筆頭次長だった茶谷栄治氏(61年)の抜擢を模索する向きがあった。「次の次」に変化をもたらそうという発想だったが、結局は同様に「王道を歩むべきだ」との官邸サイドの構想もあり、太田充主計局長(58年)で決着した。可部氏は当初の構想通り理財局長に回り、麻生色が出たのは藤井健志(たけし)国税庁長官(60年)ぐらいだった。
「岡本財務省」は官邸のバックアップのもと、役所の立て直しに専念せざるを得ない。財務省主流派が描く来年以降の「太田次官―可部次官」体制でどこまで巻き返せるか、正念場を迎える。
★次官レースに突風
経産省に突風が吹いた。内閣府政策統括官だった新原浩朗(ひろあき)氏(59年、旧通産省)が、資源エネルギー庁長官と並ぶ「次官待ちポスト」の経済産業政策局長として復権したからだ。嶋田隆事務次官(57年)の後任とみられていた、新原氏と同期で前任者の糟谷(かすたに)敏秀氏は官房長に格下げとなり、「こんな強引な人事は見たことがない」(有力課長)と省内を驚かせた。
新原氏は五年前、厚労省に官房審議官として出向。その後、内閣府に移り、経済財政諮問委員会や政府経済見通し、中期財政計画の立案を担当してきた。「市場主義を信奉する成長論者で、最新の経済理論にも詳しい。能弁と腰の軽さが持ち味」(内閣府幹部)と評され、経済財政相だった甘利明氏や加藤勝信厚労相ら首相側近の知遇を得た。
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source : 文藝春秋 2018年09月号