1954年11月、「ゴジラ」(本多猪四郎監督)が封切られた。特殊技術で観客の度肝を抜いたのは“特撮の神様”円谷英二(1901~1970)。この年にデビューした宝田明氏の初主演作だった。
宝田氏
東宝に同期で入社した河内桃子さんや一期上の平田昭彦さん、「七人の侍」を撮り終えたばかりの名優・志村喬さんとの共演でした。
円谷監督に初めてお会いしたときは、感激しました。僕は戦争中に「ハワイ・マレー沖海戦」「加藤隼戦闘隊」などの戦意高揚映画を観て、真珠湾攻撃やイギリスの戦艦プリンス・オブ・ウェールズの撃沈シーンを、空撮した実写だと思い込んでいました。その場面が特殊撮影によるもので、撮ったのが円谷監督だったと、そのときまで知らなかったんです。すごい人がいるんだなと思ったものです。
円谷監督は寡黙な方でしたが、「君は新人だろ。主役というのは大変なんだから、頑張りなさいよ」と声をかけられたのを覚えています。
本邦初の怪獣映画ですから、撮影は手探りでした。本多監督に「あの山の向こうの雲がゴジラの顔だと思ってください」と言われて演技をしている途中で、「カット! 皆さんの目線がバラバラです」と声がかかります。すると志村さんが「監督、どこにゴジラがいるんですか」。目印だった雲は、もう流れ去っていたんです(笑)。
試写を観たときは、ゴジラがかわいそうで涙が止まりませんでした。オキシジェン・デストロイヤーで白骨となって海の藻屑と消えていく姿を見たら、水爆実験で眠りから覚まされたゴジラも核の被害者だ、と同情が湧いてならなかったからです。
円谷英二
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source : 文藝春秋 2022年1月号