news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、総理夫人の岸田裕子さんです。
「会った瞬間、結婚すると思った」それでも夫婦ゲンカが始まると——
有働 昨年10月にファーストレディになられて、それまでとは生活は大分変わりましたか。
岸田 主人は立場とともに世界が一変したと思いますが、私はそれほど変わっていないです。ただ、総裁選やその後の衆院選では私も取材を受けることが多かったので、地元の広島で「あら、どこかでお見かけしたような……」と声をかけられることは増えましたね。
有働 どう答えるんですか。
岸田 何と答えていいかわからなくて。いきなり名乗るのも変だし、「そうですか」と流しています。
有働 控えめでいらっしゃる! 私だったら「宅の主人は総理でございます」って言いそう(笑)。昨年末には首相公邸に入居なさいましたよね。広そうですねえ。
首相公邸
岸田 本当に広くて、ちょっと落ち着きません。気付いたら結構な距離を歩いています。
有働 健康に良さそうですね。
岸田 そうですね。家中をグルグルとランニングしたら運動になると思います。
有働 公邸には幽霊が出るという噂がありますが、出ましたか?
岸田 どうなんでしょうね。何となく物音がしますけど……。
有働 エーッ!
岸田 気のせいかもしれないし、電化製品がコツコツ鳴ったりすることもよくあるじゃないですか。何となく「あれ?」みたいなのはありましたけど、あまり口にすると、騒ぎになるからやめておけと主人は言っています。
有働 ひとまず風か建付けのせいということで。でも前々からそういう噂があるなか、入居するのは怖くなかったですか。
岸田 そんなに怖くはなかったです。霊がいて体調が悪くなることでもあればその時考えるとして、とりあえずは入ってみようと。
有働 お正月をホテルでお過ごしになっていたので、何かが出たかと心配申し上げておりました(笑)。
岸田 それは関係ないです(笑)。
岸田さん(左)と有働キャスター
衣装協力:SANYO SHOKAI(ポール・スチュアート)☎ 0120-340-460
男には負けないぞ
有働 我々は裕子さんについて断片的にしか存じ上げませんが、そもそもご自身でどんな性格だと分析しますか。
岸田 結構熱いほうだと思います。
有働 情熱的ということですか!?
岸田 ええ。そんなふうに見えないと思うんですけど、「これをやるぞ」と決めたら目標に向かって燃えていくところがあります。逆に燃えるものがないと、ダラけてしまう感じ。
有働 選挙も「よし、やるぞ」と。
岸田 そうです。すごく大変なものですけど、やっぱり燃えます。
有働 そうやって燃えることは人生で多かったですか?
岸田 私はきょうだいに兄と弟がいて、小さい頃から男には負けないぞという思いはありました。中学受験、大学受験は燃えましたね。そして人生のスイッチが入ったのは、結婚してから。
有働 おー、そこで人生のスイッチが入りましたか。
岸田 私は政治の世界と無縁でしたから、主人から聞く選挙の苦労話がすごく新鮮で。主人が「選挙に出て議員になったら総理を目指すんだ」と話していて、議員なら誰もが目指すものだというニュアンスで言ったらしいんですけど、当時の私は「すごい、この人、総理大臣を目指すんだ」と感じた。それがずっと頭の片隅に残っていたと思います。
有働 裕子さんは広島女学院中学・高校から東京女子大を出て、マツダに就職されて、同世代女子のエリート中のエリートですよね。同年代で言うと、橋本聖子さんとか、マラソンの増田明美さんとか、芸能界なら薬師丸ひろ子さん。いろんな生き方がある中で、政治家との結婚って大変そうだし、夫を支えなきゃいけないしで、どうしてその決断をされたのか、個人的には一番気になっていました。
岸田 主人とはお見合いだったのですが、会った瞬間に「私、たぶんこの人と結婚するんだろうな」と思ったんです。
有働 裕子さんがマツダで秘書をされている時に、総理から一目惚れされたという報道もありましたが。
岸田 いえいえ普通のお見合いです。両家のおばあちゃん同士が学生時代の友人で、私の母は岸田家について聞いていたんです。「岸田さんの家族は皆さん本当に人柄がいいよ」と。それでお見合いをすることになって、自己紹介書だけあって写真がなかったんですけど、世話人のおばさんが「写真はないけど上原謙に似てる」とか言って(笑)。
有働 加山雄三さんのお父上で、昔のイケメン俳優さんですね。
プロポーズの言葉は……
岸田 実際にお見合いをすると、周囲から「政治家の家はやっぱり大変じゃないか」とか色々言われましたけど、若かったしあまり気にならないというか、よくわかっていなくて、「この人と結婚するな」とそのまま進んだ感じですね。
有働 「結婚するな」と思った理由は何ですか。確かにご結婚当時のお写真を拝見したら、総理はスラッとされてかっこいいですが。顔がタイプだったんですか。
岸田 全体の雰囲気とかですね。
有働 スマートだとか?
岸田 (対談に同席する長男・翔太郎氏を見やって)そんな……息子の前で、ちょっと恥ずかしいです。
有働 すみません、ゴリゴリ聞いて。恋バナ大好きで、つい。
岸田 恋バナですか(笑)。さわやかな笑顔で部屋に入ってきて、パッと見た時にすごく感じのいい人だなと思ったんです。
有働 決め手はさわやかな笑顔でしたか。ズバリ、プロポーズの言葉は!?
岸田 それはちょっと、永遠の秘密でお願いします(笑)。
有働 気になる~! 政治家の妻になって何が一番大変でしたか。
岸田 今になってみるともう忘れてしまったというか。その時その時で大変なことはあったと思うんですけど。
有働 そう言えるって素晴らしいですね。じゃあ、目の前に出てくる選挙をはじめとする課題を、その都度乗り越えてこられて。
岸田 そうですね。
有働 子育ては広島でお一人でという、今でいう「ワンオペ育児」ですか。
岸田 そうです。子どもが小さい頃は一人が夜中に熱を出したら他の子をどうするかとか、そういう時は結構大変でしたね。あとは子どもたちの幼稚園、小学校、中学校のPTAの役員をやらなきゃ、とか。
有働 確かに政治家の妻という立場上、断りづらいですもんね。
岸田 別に誰にやりなさいと言われたわけでもないですけど、何となくやらなきゃいけないよねと思って。でも、いざやってみたらすごく楽しかった。選挙になってもみんな応援してくれたり、温かい言葉をかけてくれたりしました。
子育ては「とにかく厳しく」
有働 お子さんが男の子3人というのはどうでしたか。なんとなく、物が飛んできたり壁を蹴とばしたりというのを想像しますが。
岸田 家の壁とかドアとか結構ボコボコになっていましたね。みんなすっかり大人になったので、やっとドアを直しました、ついこの間。
有働 やっぱりそうなるのか~。政治家の息子ということで、子育てで気をつけたことはありますか。
岸田 とにかく厳しく育てたつもりです。特に意識したことは、絶対に贅沢はしない。贅沢が身につかないようにしようと。
有働 それはどうしてですか。
岸田 外からの目を意識するのもありますけど、やっぱりサバイバル能力というか。政治家を目指すかどうかは別として、人生は何が起こるかわからないから、貧しくても心豊かに生きていける人になってほしいなと思っていました。
有働 たとえば日々の食事であまり外食しないとかですか?
岸田 そうですね。あと、好き嫌いを許さない。嫌いなものでも、それを食べるまでは絶対何時間でも座って食べさせていましたね。
有働 我々のようにバブル時代を知っていると、楽しい消費生活につい流れてしまいそうですが。
岸田 何か物を買ってあげるにしても、お誕生日とクリスマスだけと決めていました。
有働 それだけ厳しくても、いや厳しかったからなのかな、壁に穴が開いたりしたのですね。
岸田 やっぱり反抗期がありましたから。そういう時には声を大きくして怒ることもありましたね。
有働 翔太郎さんからみて怖いお母さんでしたか。
翔太郎 厳しかったなというのはありました。
有働 男の子3人の反抗期っていかにも大変そう。東京にいる総理に「大変なのよ」と電話することはなかったのですか。
岸田 なかったです。
有働 強い! 裕子さん、お会いするまでクールというか、はかなそうなイメージだったのですが。
岸田 私がですか?
有働 はい。お話を伺ってみると熱くてたくましくて、意外な感じがしています。
岸田 中学1年から大学1年までずっと寮生活をしていたおかげで、生活で自立することは身についたと思います。人をあまり頼らないというか、自分のことは自分でやるというか。だからワンオペ育児でも平気だったのかもしれないですし、主人には東京でしっかりやってきてくださいと伝えていました。
夫婦ゲンカの勝ちパターン
有働 そんなできた妻がいて、総理も心強かったでしょうね。
岸田 確かにそこだけ聞くと、できた奥さんみたいですね(笑)。でも、結構ケンカもするんですよ。
有働 えー、それも意外! どんなことでケンカされるんですか?
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source : 文藝春秋 2022年3月号