武力の信奉者たちが狙う世界秩序の変更——日本を含む民主主義陣営はどう対抗すべきか?
ロシア政府に近い関係者からのメッセージ
2月23日午後9時過ぎ。ウクライナの首都キーウに住む筆者のもとに、長年の取材先であるロシア政府に近い関係者から、メッセージが届いた。
「キエフ(キーウ)を脱出するなら、今夜しかない」
それはこんな内容だった。
——北、東、南からウクライナを取り囲んだ約20万人のロシア軍がおそらく明日、全面的な侵攻を開始する。3~4日で首都キーウを包囲し、内側からも破壊工作を仕掛ける。狙いはウォロディミル・ゼレンスキー政権を転覆させ、傀儡政権を樹立することだ。
首都では精度の高い巡航ミサイル攻撃で軍の拠点、政府機関などを無力化するだろう。空爆による都市破壊や戦車を侵攻させる市街戦は想定していない。特殊部隊を侵入させてネット・通信網、電力の供給を遮断し、混乱を煽って包囲戦を展開する——そんな細かなシナリオまで、その人物は指摘した。
「包囲されてライフラインが切られれば、都市は長くはもたない。政権はすぐに降伏するはずだ。市民が抵抗しても簡単に制圧できる。大半は占領軍に従うだろう」
この予言の通り、ロシア軍は翌24日午前5時、ウクライナ各地へのミサイル攻撃を開始し、首都でも爆発音が響いた。数千の迫撃砲、戦車、戦闘機、80隻の戦艦を擁するロシア軍部隊は圧倒的な軍事力で襲いかかった。ロシア大統領ウラジーミル・プーチンは「1945年以来(第2次世界大戦後)、最大規模の戦争」(イギリス首相ボリス・ジョンソン)を始めたのだ。
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source : 文藝春秋 2022年4月号