わがギャンブル経営哲学

特集 日本企業「復活への道」

藤田 晋 サイバーエージェント社長
ビジネス 企業
麻雀も仕事も「運が7割、実力3割」
藤田社長近影
 
藤田氏

「ウマ娘」の利益を競馬界に還元

 昨年、念願の馬主になりました。7月のセレクトセールでは1日で15億円を使い、5月に約5億円で競り落としたディープインパクト産駒の牡馬ドーブネをはじめ、今は27頭を所有しています。

 一生楽しめるものに出会った。愛馬が出走するレースがある週末が楽しみでなりません。

 レース毎にジョッキー、調教師、厩舎のみなさんとチームを組み、勝ったら賞金を山分けし、負けたらみんなで悔しさを共有する。これが馬主の醍醐味です。昨年から愛馬が次々デビューしていますが、この1年目でしっかりと土台をつくり30年かけて馬主をやっていくつもりです。目標としては、いつか有馬記念を制覇したいと思っています。

“爆買い”と揶揄されたほど1年目から巨額の投資ができたのは、スマートフォン向けゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のおかげです。サイバーエージェントの子会社、サイゲームスが昨年2月にリリースしました。過去の名馬を擬人化した「ウマ娘」を育成し、レースに挑むゲームです。

 これが1300万ダウンロードを突破(1月時点)する大ヒットとなり、テレビアニメや漫画も高い人気を誇ります。おかげさまで2021年度の連結売上高は6664億円と前年比39.3%の増収で、過去最高の業績となりました。

 最近はスポーツ紙で「ウマ娘オーナー」と書かれるため、「仕事のために馬主をやっている」と、誤解してくださる方も少なくない(笑)。実際はゲームが当たる前から馬主になることを決めていたのですが、「ウマ娘」の利益を競馬界に還元するという「大義名分」ができたので、予定より多くの馬を買えたのです。

麻雀で経営を学んだ

 1998年創業のサイバーエージェントは、インターネット広告事業からスタートし、その後、時代の変化に合わせながら「Amebaブログ」や「ABEMA」(以下、アベマ)などのメディア事業、ゲーム事業へと拡大してきました。

「ウマ娘」のように、いくつかの事業は私の趣味や得意分野と密接に結びついています。その代表例が麻雀でしょう。

 小学生のとき、友達のお父さんに手ほどきを受け、はじめて卓を囲みました。大学進学のため上京すると、雀荘に入り浸り、徹夜明けのその足で東京競馬場が定番コースとなりました。転機は、20年間無敗の伝説で知られる雀鬼、桜井章一さんの道場に通うようになったこと。麻雀哲学をたたきこまれ、これが仕事をする上で大いに役立ちました。

 24歳で起業して以来、麻雀から遠ざかっていましたが、2014年にプロも参加する「麻雀最強戦」で優勝。そこから再びハマってアベマの「麻雀チャンネル」内のリーグ戦に自ら出場するように。当時、社員は「社長は仕事をしているのか」と不安に感じていたのかもしれない(笑)。

 麻雀といえば、賭け事、徹夜、接待といったネガティブな印象を持つ方もいると思いますが、私が身を置くのは競技麻雀という真剣勝負の世界です。試合に出れば成績が晒されますから、己のプライドにかけてガチンコで戦う。お金を賭けるのはもってのほか、お酒を飲んで麻雀を打つことなんて絶対にあり得ない。

 2018年に麻雀のプロスポーツ化を目指して、プロリーグであるMリーグを立ち上げました。「麻雀チャンネル」でリーグ戦の全対局を動画配信したところ、有料会員が増えスポンサーもかなりついた。今やアベマのキラーコンテンツです。

 ルールが分からないのに観て楽しむ「観る専」の視聴者もいて、私の母もその1人。必死の形相で打つプロの凄みが伝わっているのではないでしょうか。

 ちなみに、当社には麻雀部があって部員は150名を超えます。SNS上のグループでは参加者全員の名前と所属が成績順に出ており、私がずっとトップです。

 麻雀は、4人1組で卓を囲み、牌を組み合わせて役を完成し点を競う頭脳ゲームです。136ある牌の山から1牌ずつ引いていくところからはじまります。いきなりアガリに近い配牌をもらう幸運な人もいれば、その反対にクズ手をもらう人もいる。不平等な状況が生まれるため運の要素が大きいともいえます。

 ただ、私の経験上、7割が運だとしても残り3割の実力によって順位が決まる。短期的に見れば運に左右されても最後は実力が物を言う。これって生き馬の目を抜くビジネスの世界に似ていると思いませんか。

 私は麻雀からビジネス経営を学んだと言っても過言ではありません。

 麻雀もビジネスも局面は刻一刻と変化します。勝敗を分けるのは、その時々の「押し引き」の判断です。配牌で「これはチャンスだから押すべきだ」という手牌なのに手が進まなかったり、相手が優勢となり危険な状況なのに引けなかったりすることがある。ビジネスは1回コケるとこわい。だから、小さいリスクのほうに賭けて押すべき局面で押せなかったり、リスクが高いのに無理な勝負に出てしまうことがある。麻雀、ビジネスともに、冷静で素早い状況判断が求められます。

ABEMA麻雀chツイッターより
 
腕前はプロ級(ABEMA麻雀chのツイッターより)

アベマに1000億超を投資

 そこで、押し引きの判断に必要なのが「主観、客観、俯瞰」の3つの視点です。麻雀が強い人には必ず備わっているといっていい。

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source : 文藝春秋 2022年5月号

genre : ビジネス 企業