「人生100年時代」と言われる今、60歳を過ぎても働くことが当たり前になりつつある。小誌記者は30代だが、いずれ訪れる老後に不安を感じる。そこで、『等身大の定年後』を上梓した近畿大学教授の奥田祥子氏に話を聞いた。
懸命に働く市井の人々の声に耳を傾けてきた奥田氏だが、自身のキャリア形成も試行錯誤の連続だったという。
「大学時代は演劇に打ち込み、27歳で地方の新聞社に就職。社会人として遅めのスタートを切りました。全国紙に転職してからは、中途入社という理由で悔しい思いをしたことも多かった。もっと活躍のチャンスをつかみたいと、41歳で大学院の博士課程へ。私なりにスキルを磨く努力をしましたが、50歳のときに志半ばで介護離職することに。人生のままならなさを感じる一方で、はからずも辞職直後に取得した博士号が大学教員としてのキャリアに繋がりました」
記者時代から労働問題に取り組み、個人活動として最長で二十余年に渡り同じ取材対象者に継続インタビューを実施。取材協力者は約1500人に及ぶという。
膨大なデータから浮かび上がるのは、セカンドキャリアを切り拓かんと孤軍奮闘するシニア世代のあるがままの姿だ。定年前後の職場環境や処遇の変化に悩み、ときには涙ながらに怒りや生きづらさを吐露する人も少なくないという。奥田氏は彼らの語りだけでなく、表情や身振りといった非言語コミュニケーションをも詳細に記録・分析している。
「取材を始めた当初は高年齢者の雇用確保措置が義務化されておらず、55歳で役職定年、60歳になると『はい、さようなら』という時代。でも、当事者に話を聞くと、労働を通して自分の価値を見出したいという人がほとんどでした。頑張って働いたご褒美として明るい老後が待っていて然るべきなのに、なぜ現実は違うのか。取材者として感じた社会への疑問を追い続けて今日に至ります」
本書では、定年後の選択肢として再雇用・転職のみならず、近年注目が高まるフリーランスなどの働き方、管理職経験者のロールモデルが少ない均等法第一世代の女性のケースも紹介している。いずれも成功した人とそうでない人の事例を取り上げ、明暗を分けた要因に迫る。
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