昔の小説に出てくるお店をネットで検索して、いまでも存在してるか調べる遊びが最近好きだ。永井荷風の『断腸亭日乗』を読むにあたり、荷風行きつけの料理店などを検索してみた。荷風は自炊しないタイプで外食が多く、亡くなる間際も大好きだった市川の大黒家のカツ丼をよく食べていたというが、惜しくも2017年に閉業していた。この日記は書かれた年代は古いが、内容は街ブラにカフェ、ショッピングといった、銀座や浅草を目指して出歩くのが好きな荷風の毎日を記した日記で、読むとワクワクする。
荷風行きつけのそば屋、尾張屋本店は営業していたので行ってみた。活気のある店内で天ぷらそばは美味しかったが、それ以上に店内に飾ってある、写真嫌いの荷風を無理やり撮ったという、隠し撮り風味の写真が気になってしょうがなかった。帽子も脱がずにそばを食べている最中でぎょっとした表情をカメラに向けている。他にも行きつけの「どぜう飯田屋」にも行ってみた。立派な店構えでちょっと恐縮していたのだが、店員さんが注文を取る際まず「お酒は飲まれますか?」と親しげに訊いてきて(まだ昼間だったのだが)周りのお客さんも食べる前に呑んでる人が多く、荷風はこの店のこんな雰囲気が好きだったのかなと思った。天ぷらそばも柳川鍋も共通して、しっかり濃いめの甘い味つけで、荷風の味の好みに触れられた気がした。
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source : 文藝春秋 2022年9月号