「カイロ大学を首席で卒業」──総選挙で日本中をかき乱し、今も都知事として権勢を振るう彼女の華々しい経歴は、42年前の噓からスタートした
〈私は小池百合子さんとカイロで、同居しておりました者です。カイロ大学を卒業、しかも首席で、という肩書を掲げて小池さんは今日の栄光を勝ち得ましたが、彼女は実際にはカイロ大学を卒業していません。この事実を口にするには、彼女はあまりにも有名で、国民に知らされている情報を覆すことは、身の安全も考慮して、私には出来ませんでした。ですが、石井様の記事を読み、秘かにでも、すべてをお話しさせて頂けたらと思い、筆を取りました次第です〉
カイロ空港に降り立った瞬間から、異国に足を踏み入れたとの思いを強くした。人が寄ってきては、強引に荷物を運ぼうとする。どのタクシーにもメーターはなく、すべては交渉によって決められる。吹き付ける熱風には砂塵が混じり、ちょうど、イスラムの休息日だったこともあって、コーランの一節を唱える祈りの声が朗々と、どこからともなく響いてきた。
訪れた先は、典型的な石造りのアパートメントで、幅の狭い階段を5階まで息を切らして登った先に、その住まいはあった。
カイロにある中川恵子さん(仮名)の自宅である(実名での告白は避けたいとのご意向を尊重し、本稿では仮名とする)。通された居間の家具の上には、風に運ばれた砂がうっすらと積もっていた。数日前に、ひどい砂嵐が吹いたせいだという。
出迎えてくれた中川さんは、痩身で小柄。70代の後半と聞いていたが、年齢よりもずっと若々しく、手紙から受けた印象どおり、論理的な思考力と知性を、その面立ちからまず感じ取った。また、眼差しには人間的な温かみと、この異国で長年、暮らしぬいてきた人らしい精神の強靱さも垣間見える。
中川さんは、小池の嘘に巻き込まれてしまった犠牲者である。小池が政界で権力を得ていくに従い、秘密を知ってしまった自分に災禍が降りかかるのではないかという不安を抱えて、数十年という歳月を過ごしてきた。
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source : 文藝春秋 2018年07月号