フランス発「奇跡の認知症ケア技術」

大特集 理想の介護と最期

本田 美和子 東京医療センター総合内科医長
ライフ 医療

暴言や暴力を激減させる「4つの柱」と「5つのステップ」

基本は相手の目線で「見る」こと ©iStock

 近年、「ユマニチュード」と呼ばれる、認知症ケアの技術が注目されるようになりました。体育学の教師から看護・介護の分野に関わることとなったフランスのイヴ・ジネスト先生とロゼット・マレスコッティ先生が、約40年前から試行錯誤を重ね、哲学や技術体系を作り上げてきたものです。ユマニチュードという言葉は、フランス語で「人間らしくある」という意味です。

 以前から、認知症のある方とどう接していくかは、医療や介護の現場で大きな課題の一つでした。看護師や介護士は優しい気持ちでケアしているのに、頑として受け入れてもらえなかったり、時にまるで戦いのようになってしまうことが珍しくありません。ご自宅でご家族が介護している場合も、どのように接していいのかわからず、さまざまな形で困った状況が生じています。

 しかも、ケアをする人が、うまく行かない理由は自分の資質や優しさが足りないからではないかと自らを責めているケースを多く見聞きしてきました。これは、介護者と認知症のある方、双方にとって、とても不幸なことです。

 そういった悩みを抱える人が多いなか、ユマニチュードはケアをする人たちの資質によらず、技術によってその状況を改善するものです。

 実際に、ユマニチュードを用いることで、ケアが困難な方が受け入れてくれるようになり、「奇跡だ」、「魔法のようだ」と驚かれることもあります。

 一例として認知症の高齢女性のケースをあげたいと思います。シャワー介助の際、彼女に看護師が、「温かいですよ」、「気持ちいいですよ」と優しく声をかけています。しかし、彼女は、「なんでこんなことするの!」、「温かくないよ!」と絶叫しています。ケアを行なっている看護師たちはよかれと思ってやっていることが受け入れられず、とても困惑し、悲しげな表情をしています。

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source : 文藝春秋 2018年07月号

genre : ライフ 医療