通貨ユーロがヨーロッパを滅ぼす

エマニュエル・トッド 歴史人口学者・家族人類学者
ニュース 経済 国際

カタルーニャ独立運動はEU崩壊の引き鉄になる

カタルーニャ州で起きた独立派のデモ ©時事通信社

『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』『問題は英国ではない、EUなのだ』(いずれも文春新書)でEUの「ドイツ帝国」化に警鐘を鳴らし、英国のEU離脱(ブレグジット)も予言していたフランスの家族人類学者、E・トッド氏。州首相の逮捕状発行にまで発展し、収束の見えないスペイン・カタルーニャ州の分離独立問題は何を意味しているのか。氏によれば、この問題は一般に報道されている以上に深刻で、英国EU離脱や単一通貨ユーロの機能不全など、より大きな問題と連動しているという。トッド氏が、カタルーニャ問題から見えるヨーロッパの現状を分析し、その未来を予言する。

 スペインからの分離独立を目指すカタルーニャの問題は、ヨーロッパの単なる一地方の問題ではありません。興味深いのは、ヨーロッパ主義者(EU統合推進派)と反ヨーロッパ主義者(EU統合懐疑派)の対立の構図が変化していることが、この問題を通じて見えてくることです。

 まずヨーロッパ主義者の地域主義に対する態度が変化しています。従来、EU統合に賛成する人ほど、地域主義に好意的でした。逆に、EU統合に反対あるいは慎重な人ほど、地域主義に批判的でした。EU統合は上から国民国家を脅かし、地域主義は下から国民国家をつき崩すものだからです。

 ところが今回、EU統合派ほど、カタルーニャの分離独立の動きに批判的で、EU統合懐疑派の方が寛容的、好意的態度を採っています。

 私自身について言えば、EU統合派ではなく国家重視派ですから、本来、カタルーニャの分離独立の動きには批判的であるはずなのに、自分自身の中にカタルーニャの分離独立運動の高まりに対するシンパシーが次第に高まっているのを感じます。逆にEU統合派は、本来、スペインよりもカタルーニャにシンパシーを感じるはずですが、徐々にそうではなくなってきています。

カタルーニャに怯えるEU

 なぜこうした変化が生じているのか。私の考えでは、それは、EUがもはや緩やかな国家連合ではなく、国家から主権を奪い、それ自体が中央集権化したからです。そこで、「反国家」のニュアンスを帯びるはずの地域主義が、「反EU」の意味を持ち始めたのです。

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source : 文藝春秋 2018年01月号

genre : ニュース 経済 国際