「日本人初」の重圧を乗り越えるまで
スタートからの加速ではやや遅れをとった桐生祥秀(よしひで)(21)は、中盤以降にグッと前へ。競っていた多田修平(21)を長所である後半の“伸び”で抜き去ると、最後まで安定したフォームを保ち、スピードを落とすことなくゴールラインを切った。
その瞬間、スタジアムで大きな歓声があがり、スタンドは異様な興奮に包まれた。速報掲示板に表示されたタイムが9秒99だったのだ。
その表示はすぐに消え、正式タイムの発表を待った。ゴール後、速報値を横目で確認した桐生は身体の前で小さくガッツポーズを作り、興奮したのか、ゴール後も惰性で60mほども走っていた。スタジアムのどよめきはおさまらず、カメラマンたちが桐生のそばへ駆け寄っていく。決勝で一緒に走った他の選手もウロウロと落ち着かない様子だ。
通常より確定されたタイムが出るのが遅い。この間の心境を、桐生は「伊東浩司さんが10秒00を出したときも、速報は9秒99でした。10秒00にならんといてくれ、と祈りました」と語っている。
そしてゴールから約33秒後、やや静けさを取り戻していたスタジアムが、今度はウオオオオという地鳴りのような歓声に包まれた。
桐生は感情を爆発させ、何度も飛び跳ね、スタンドを指差しながら駆け出した。メインスタンドではコーチの土江裕寛が、涙でぐちゃぐちゃになった顔で関係者と握手をする。
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source : 文藝春秋 2017年11月号