明暗を分けたホンダと日産。消極策は失敗の元だ
ここ数年、日本では、中国経済といえば「失速」ばかりが強調されています。しかしその実態は、ほぼ安定した状態がつづいています。
日銀勤務時代の1991年に北京の日本大使館に派遣されて以来、27年間、中国経済を見てきましたが、そのスケール感、地域間の大きな差は、日本人の想像をはるかに超えている。それゆえ日本企業もしばしば見通しを誤ります。まずは、そのことを示す実例を紹介することから始めましょう。
その実例とは、昨年、中国で絶好調だったホンダです。経済失速と言われるなか、ホンダの中国における販売台数は、前年比24%増でした。1年間に125万台を販売し、トヨタをついに追い抜いた。トヨタは121万台、8.2%増でしたから、ホンダは大成功だったわけです。
ところがこの成功で、ホンダの業績見通しの誤りが明らかになってしまいました。中国の2つの工場がフル稼働に近づいていたため、いまから1年半前の2015年秋に第3工場(湖北省武漢市)の建設発表があると予想されていたのです。ところがタイミング悪く、南シナ海問題が浮上しました。南シナ海問題が東シナ海に波及して日中関係が悪化すれば、また不買運動が起るかもしれない。ホンダの経営陣も、部品メーカーもみんな心配して消極的な意見が増えた。結果として工場建設は1年先延ばしになりました。
そして1年待ってみたら、販売台数が予期せぬ高い伸びになったわけです。第3工場が完成していれば、莫大な利益が得られたはずでした。たいへんな機会損失(得られるはずの利益を失った)になると見られています。
日本の自動車メーカーは中国で大きな利益を上げています。実はいちばん売れているのは、ホンダでもトヨタでもなく日産(135万台)です。日産が中国で販売台数を伸ばしたのは、今回のホンダと逆の戦略を取ったからでした。
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source : 文藝春秋 2017年05月号