「立憲主義」を知らない、「道徳」と「法」の区別もつかない。そんな議員に国憲を定める資格があるのか
小林 今日は、安倍政権の推し進める憲法改正の是非について議論をしたいのですが、その前に、三月二十日に行われた自公合意について一言申し上げたい。安倍政権は、昨年七月に憲法で禁じられるとされてきた海外派兵に踏み込む「集団的自衛権」の行使を閣議決定で認めました。いわゆる解釈改憲です。そして今回、自衛隊の海外派兵を容易にする「安保法制」の骨組みに合意した。憲法改正の最重要課題である九条を無視して、話をどんどん進めている。こんなことをしていたら、日本は法治国家ではなくなりませんか。
舛添 あっという間の合意でしたね。これだけ急いで自公が合意に至ったのは、おそらく今月行われる統一地方選を意識してのことでしょう。両党が対立している姿を支持者に見せたくなかったのです。しかし、地方選挙レベルの影響で、国の根幹の議論がないがしろにされていることには危機感を覚えますね。
三浦 私は法律の専門家ではなく、政治学や安全保障が専門なので、日本が置かれている状況を考えると安保法制や恒久法は必要だと思っています。その上で、言い方は法学者に対して失礼にあたるかもしれませんが、政権の改憲への一連の動きは、手続き論上にしても、憲法解釈のあり方にしても、一言で言えば、“筋が悪い”と感じます。
小林 「安保法制」について少し整理しておくと、我が国には自然権としての自衛権はありますから、他国から侵略された時に専守防衛をすることはできます。ところが、憲法九条で軍隊と交戦権を否定している以上、海外で軍事活動をするための手足や法的資格を持たない。それが憲法の建てつけであり、他ならぬ自民党の歴代総理大臣が表明してきたスタンスです。
今回の合意は、海外で他国が襲われている、そのことが我が国の存続を脅かし、国民の人権に明白な危険がある場合には、自衛隊が海外に出て行ってもいいというのですが、これは実際には起りえない架空の事態です。あるとすれば朝鮮半島有事ですが、それについてはすでに「周辺事態法」で対処できる。安倍首相は、あくまでも友好国の後方支援として輸送や医療、食料補給を担当すると言いますが、軍事の常識として最前線と非戦闘地域が明確に線引きできるわけがない。
三浦 私たちの世代は、政治意識が芽生えたころには、すでに社会党が自衛隊合憲論を打ち出していて、その後も周辺事態法や有事法制の制定、イラク派兵など、めまぐるしい変化がありました。ですから、九条一項が定める「平和国家」という部分以外は、根本的には憲法が歯止めとして機能してこなかったのではないかという不信感があります。だからこそ、歯止めの議論を延々とやるのではなく、安全保障政策を民主主義の過程でコントロールする必要があると思っていて、仮に、筋の悪い持ち出し方であっても、これを機会と捉えて徹底的に議論していかなくてはと思っています。安全保障の世界ではリアリティのある議論をしておかないと、いざという時に、法律論があっという間に超法規の世界になってしまうんです。そうした時、武力行使をしたい勢力に負けてしまう恐れがあります。
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source : 文藝春秋 2015年05月号