幕末とそれにつづく明治の時代に生きていたら、さぞかし面白かったろう、と思う。男たちは、また女でさえも、脱皮という名の成長をつづけていかざるをえない時代であったのだから。1862年、藩主の父久光の行列の前を乗馬姿の英国人数名が横切ったのに激昂した従者たちが1人を斬殺し2人を傷つけた、世にいう生麦事件が起る。これには英国側も激昂し、翌年早くも英国艦隊は薩摩湾内に入ってきて、藩側が手も足も出せないでいる前で、湾内の防衛施設に徹底的な砲撃を与えた後で引き揚げていった。やられっ放しであったその時の鹿児島には、36歳の西郷隆盛も33歳の大久保利通もいたのである。
ところがそれと同じ頃、長州藩でも事件が起っていたのだ。下関沖を通過中だった外国船を砲撃したというのがそれ。このときの報復は翌1864年、英・米・仏にオランダの四国連合艦隊で為され、これまた長州側が手も足も出せないでいる前で、下関周辺の砲台という砲台が破壊されたのだった。
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source : 文藝春秋 2022年11月号