6時過ぎ。弁当を作り朝ごはんを準備するのが日課です。髪の毛を念入りに整える娘と、目やにをつけたままマンガを読む息子に「早く」「急いで」「まじで」「何してるの」「コラ」と言うのがルーティーン。
『一緒に生きる 親子の風景』は、切羽詰まってきりきりしがちな日常に新鮮な空気を届けてくれるエッセイ。月刊誌『母の友』で連載されていたものですが、悩み揺れる親心に寄り添う温かい文章に支えられた読者は多いはず。歌人である著者が、雑誌投稿欄に自作が初めて掲載された時のことを《うれしかった》《一日中赤ん坊としか話をしないような閉ざされた》時期だったから社会とのつながりを実感できた、という風に書いておられますが、かつて私も乳児との生活に戸惑っていた一人でした。幼子と視線を合わせ歩みを揃えることは、溢れるほどの幸福と不安がない交ぜになるものと、当事者になって初めて知る。苦手な食べものを前に「むじゃい」といいながら顔をしかめる息子さんの話に自分の子の姿を重ね合わせ、様々な短歌や詩を引用されている頁では、言葉の美しさにはっとさせられました。
ワンオペ育児の辛さも、子どもを巡る悲しい事件や貧困など社会の課題についても綴られて、これらはいつ誰が当事者になってもおかしくないこと。ためらわず手を差し伸べ合えるのが当たり前の世の中になることを願わずにはいられません。
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source : 文藝春秋 2022年11月号