陰謀論やフェイクニュースが蔓延し、理性を前提とした制度が揺らいでいる。だが『人はどこまで合理的か』でスティーブン・ピンカーは、人間は愚かだが、その一方で賢くもあり、だからこそ驚異的な文明をつくりあげたのだと説く。人類がこれからも進歩し続けるには、合理性が人生や社会の役に立つことを啓蒙していかなくてはならない。
シリコンバレーの起業家・投資家でもあるネットワーク研究者が、大量の研究をもとに、SNSが疑似現実をつくりあげ、フェイクニュースを拡散していく仕組みを論じたのが『デマの影響力』。この巨大な力を制御するのは不可能ではないものの、そのためにはSNSを根本的につくり直さなければならない。
人類は何百万年ものあいだ、150人ほどの共同体のなかで、自分の地位を上げようとする複雑なゲームを行なってきた。『ステータス・ゲームの心理学』は、SNSがこのゲームをグローバル規模に拡張したことで、わたしたちはステータスをめぐる過酷な競争に翻弄されることになったという。この「地獄」から抜け出すには、SNSを利用しつつ距離を置くリテラシーが必要らしい。
ひとは自分の人生を物語として語り、世界を物語として理解する。だからこそ物語は素晴らしい、という話になるのだが、『ストーリーが世界を滅ぼす』では、英文学教授である著者が、物語こそがひとびとの憎悪をかきたて、社会を分断していると警告する。愛国や自己犠牲の安直で魅力的な物語は、共感を集めて社会を支配するための道具でもある。
学者や専門家の知見を信用すれば、陰謀論にはまらずにすむのだろうか。一般論ではこれは正しいものの、気候科学においては、専門家は「科学」のレベルに達していないと批判するのが『気候変動の真実』。典型的な「気候変動否定論」だと思うかもしれないが、著者はオバマ政権で米国エネルギー省の科学担当次官を務めたアメリカを代表する物理学者の1人で、コンピュータによるモデリングの専門家だ。
人類の祖先が森林の縮小によってサバンナで暮らすようになり、直立二足歩行を始めたという通説は、化石証拠で初期人類が樹上生活をしていたことがわかり、否定された。だったらなぜ、わたしたちの祖先は二足歩行という奇妙な移動方法を進化させたのか。『直立二足歩行の人類史』では、古人類学者が驚きの仮説を提示する。
人間は「走るために生まれてきた(Born to Run)」のではなく、できるだけエネルギーを節約し、だらだらするように進化したと説くのが『運動の神話』。とはいえ、身体活動の進化を専門とする著者は、だからこそ現代では、適度な運動を自らに強制することが必要なのだという。
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