今回は、これまでにこのコラムを読んだ人からの質問への答えをまとめてみることにしたい。まず、先月号で書いた、抑止力なるものについて。
今からは二千年も昔になる古代のローマ時代、当時はガリアと呼ばれていた北西ヨーロッパに進攻中のユリウス・カエサルの陣営地に二人のガリア人が侵入したのだが、見つけ出されて最高司令官の前に引き出された。
カエサルは、何が目的で侵入したのか、と問う。殺されるのを覚悟していた二人は、昂然と答える。カエサル軍団の戦力を探るためであったと。それに、カエサルは言った。
「三日間与えるから、その間に自由にどこにでも行き、存分に見ることを許す」
三日後、再びカエサルの前に連れてこられた二人のスパイに、ローマの武将は言った。
「存分に見たか」
「見た」
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source : 文藝春秋 2019年12月号