羽織を脱ぎ捨てて

日本人へ 第197回

塩野 七生 作家・在イタリア
ニュース 社会

 今からは十九年前になる平成十二(二〇〇〇)年の秋、衆議院の憲法調査会が派遣した欧州各国憲法調査議員団がローマを訪れたときの話である。あの頃はこのような行事も超党派で行っていたのだと思うと苦笑するしかないが、自由民主党からは中山太郎以下四名、民主党からは仙谷由人ともう一人の二名、公明党と共産党の一名ずつに、社会民主党からは辻元清美の計九名。この他に、衆院憲法調査会の事務局関係と、同行記者がNHKと朝日、読売、産経の四人。

 その席に招ばれた私はずいぶんと大世帯で来たなと思ったが、衆議院の憲法調査会の目標自体が、「二一世紀の日本のあるべき姿」というのだから、あの当時は全員がその気になっていたのだろう。

 とは言っても、憲法調査会が日本のあるべき姿を求める会であるとするのは正しい。改正か非改正かは別にして、この会の行方しだいで、日本の将来が決まってくるのだから。

 会談は、大使公邸で行われた。迎えにきた車で公邸に連れていかれる間に、大使館関係者から告げられていた。議員団は改憲派と護憲派に分れていて、それぞれが誰と誰であるかを。それで、公邸の広間で着席した直後に、ちょっとした牽制球を投げてみたのだ。投げた相手が辻元議員になったのは、その場にいた女は彼女と私だけであったからにすぎない。

「あなたにとって、日本国憲法を起草したアメリカ人は神ですか?」辻元議員は、まさか、と言って手を顔の前で大きく振った。それで私は、追い討ちをかける。

「ならば、あなたにとっても日本国憲法は、神聖化せざるをえないものではない、ということですね」

 私がこの席に招ばれたのは、その頃は『ローマ人の物語』の連作を執筆中で、古代のローマ人の法への対し方等々について話せ、ということであったのだと思う。だから、二十年も昔のあの日の話を要約すれば、次のようになる。

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source : 文藝春秋 2022年11月号

genre : ニュース 社会