昭和の天才イラストレーター中原淳一(1913〜1983)。「中原さん無くして今の私はない」という女優・浅丘ルリ子氏が思い出を語る。
1954年、14歳の私は映画「緑はるかに」のヒロイン・ルリ子役のオーディションで最終選考に残りました。この時審査員だったのが中原さんです。原作の挿絵を手がけ、映画の衣装考証も務めていました。
最終テストの前、撮影所の人が控室でお化粧をしてくれるのですが、なぜか私のところには中原さんがいらしてメイクをしてくれました。中原さんが入れてくれたアイラインには、思わず息を呑みました。すっとラインを引くと、たちまち私の瞳がキラキラ輝きだしたのです。
無事ヒロインに選ばれたあと、「ルリ子」のイメージに近づけるため、私の髪を切ることが決まりました。中原さん自らハサミを持って、私の腰まで伸びた髪をバサッとお切りになりました。4年かけて伸ばした髪は、耳が見えるまで短く切り揃えられ、首元がスースーするではないですか。
一瞬のことにただ戸惑うばかりでしたが、鏡を見てもっと驚きました。映っていたのは、中原さんが描く「ルリ子」そのものだったのです。
何より嬉しかったのは中原さんがデザインした衣装を着られることでした。当時、私は家族6人で魚一尾の干物を分けて食べるほど貧しい生活を送っていました。父の知人の勧めでオーディションへの参加を決めたものの、よそ行きの服がなく、裕福なお友達に借りたセーラー服を着て選考会場に行っていたのです。
そんな私が、日本中の女の子が憧れる中原さんの衣装を着られるなんて……。衣装に袖を通した時のあの高揚感は今でも忘れられません。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2023年1月号