トランプ政権の対中貿易攻勢に対して、中国はさまざまな対抗策を匂わせている。そのうちもっともありうるのが、レアアースの対米禁輸措置である。米国がこの5月、ファーウェイをブラックリスト(取引禁止対象)に入れることを決定した後、習近平中国国家主席は江西省南西部の都市、井岡山(せいこうざん)に近いレアアース企業JL MAGの磁石工場を視察、中国の国営テレビはその姿を大々的に放映した。
レアアースとは31鉱種あるレアメタルの一種で17種類の元素(希土類)の総称。多くの優れた物理的・科学的特性を持つことから、先端技術を用いた製品には不可欠な素材である。EV電池、駆動モーター、ミサイル誘導制御システムには、ネオジムやジスプロシウムが必要になる。
現在の中国のレアアース生産量は10.5万トンで世界全体の85%を占める。米国の対中依存度は90%を超える(日本の対中依存度は53%)。しかも、中国は近年、高性能磁石技術に磨きをかけており、レアアース磁石のグローバル・サプライ・チェーンの急所を抑えている。石油に喩えて言えば、中東の産油国が、原油の生産にとどまらず石油の精製と製品をほぼ独占している状態である。
2010年、尖閣諸島の領土問題をめぐって日中関係が緊張した時、中国は日本に対するレアアースの輸出を2ヶ月、禁止した(中国政府は直接の関与を否定)。
当時、日本政府部内の最前線で日夜、レアアース対策に奔走した経済産業省の官僚に以前、話を聞いたことがある。彼はその頃のメモを片手に、語った。
・中国政府は、すべてのレアアース輸出業者を北京に集め、口頭で「輸出を止める」旨を伝達した。輸出業者は日本の各商社に直ちに連絡し、商社は経済産業省非鉄金属課に連絡。レアアースを輸出する船が各所で停止した。
・その後3~4ヶ月、中国政府に輸出再開を要請したが、国有企業は一言も発せず、埒があかなかった。
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source : 文藝春秋 2019年8月号