おそらく欅だと思われる。マンションのベランダから巨木が見える。
四階建てのマンションよりも高いのだから、樹齢は優に百年を超えているのかもしれない。
このベランダは決して広くはないが、とても居心地がいい。この季節になると冬の日が燦々と当たり、暖かい日は膝かけだけを持って、少し寒い日は室内から電気ストーブのコードを延ばして足元を温めながら、この巨木や中庭の紅葉を眺めている。
思えば、ここ数年、紅葉の色づくのがずいぶんと遅くなった。去年などはクリスマスどころか、年末の声を聞くようになってやっと色づいた。ただ、色づけば色づいたで、それは見事なもので、紅葉にとっても一年に一度の晴れ舞台、その燃え盛るような色には圧倒される。
紅葉がその美しさの骨頂にあるころ、巨木の葉々がはらりはらりと散り終える。風が冷たくなればなるほど舞い散る葉の数は増え、巨木の向こうに冬の青空が現れる。
なにも人間様のためでもなかろうが、夏場はあの苛烈な日差しをその身を挺して遮ってくれていた緑の葉々が、こうやって寒くなってくると、ハラハラと自ら落ちてゆき、ベランダに暖かい冬の日差しを届けてくれるのだから、よくできたものである。
いや、実によくできたものである。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2023年1月号