北朝鮮は2022年1月〜11月末までの間、弾道ミサイルや巡航ミサイル等の発射演習を繰り返し、計70発以上を日本海や太平洋に向けて発射した。主目的は核ミサイル戦力の部隊間連携や核弾頭の運用能力の検証と改善等、極めて実務的だ。
北朝鮮はこの数年間、核ミサイル戦力の奇襲攻撃能力や残存性を高めるべく、ミサイル基地や核施設で大規模な地下施設建造を推進した。
22年11月27日付の朝鮮中央通信の報道によると、金正恩・朝鮮労働党総書記は大陸間弾道ミサイル(ICBM)火星砲17型についても「地下発射場」整備を国防科学院に指示したとされる。すでに順安国際空港やユサンニのICBM関連基地等ではミサイル収納可能な地下施設が建造された。北朝鮮の核ミサイル戦力はもはや対米交渉の手段ではない。各地の大規模地下施設建造は、核態勢の不可逆的な深化を示す。
核態勢の深化の象徴は、22年9月8日に最高人民会議が発布した「核戦力政策に関する法令」だ。本法令は核戦力の基本使命を「戦争抑止」と定めつつ、抑止が破綻した場合に「敵対勢力の侵略と攻撃を撃退し、戦争の決定的勝利を達成するための作戦的使命」も定めた。注目すべきは核兵器を実使用前提の軍事手段と位置づけて、核戦力運用体制の実務的な強化を規定したことだ。
実際、核態勢はどう深化したのか。金総書記は、演習を通じて核戦力の「戦闘的効率」や「実戦能力」の向上・検証を図り、同時に「戦争抑止力稼働態勢」や「核攻撃能力」を誇示して韓国と米国を抑止する考えだという。有事の際に韓国軍を無害化するべく、精密で奇襲性の高い戦術核ミサイルで指揮所や基地を攻撃する模擬演習を繰り返した。韓国の港湾への攻撃の模擬演習も行い、有事の米軍増派兵力の着上陸を拒み、米軍介入の阻止の姿勢も堂々と誇示してみせた。また北朝鮮は、米国とその後方支援にあたる日本に軍事介入を躊躇わせるため、ICBMや中距離弾道ミサイルを発射して両国への攻撃能力を誇示し威嚇した。
野心的な新型兵器システムも開発中だ。特に北朝鮮は米国ミサイル防衛網突破のため、開発中の多弾頭化ICBMシステムの発射試験を繰り返す可能性がある。やがて米国の拡大抑止の信頼性に影響しかねない。
金総書記の世界観の変化
「力と力による対決がとりもなおさず、勝敗を決するこんにちの世界で弱者ではない第一の強者になってこそ、国と民族の現在と未来を守ることができる」
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