「理由は一切わからない。でも、ある日突然、規制がほぼなくなった」
広東省深圳市に住む筆者の知人の一人はこう驚く。彼女の言葉通り、これまで約3年にわたり続いた中国のゼロコロナ政策は、2022年11月末から劇的な転換を迎えた。
中国国民の誰もが自身のスマートフォンにインストールし、公共空間に出入りする際には必ず会場のQRコードを読み取って行動履歴の報告を求められていた国民管理アプリ「場所碼(チャンスオマー)」も、12月13日に使用が停止された。多くの都市ではPCR検査の義務化もなくなり、「大白(ダーバイ)」のあだ名でゼロコロナ政策の象徴となっていた防護服姿の当局人員の多くも街から消えた。過去の約3年間、一人でも陽性者が確認されれば、無症状の住民が暮らす同じ建物・地域がまるごと封鎖されてきたが、それもなくなった。
急激な変化の一因とみられるのは、22年11月の第4週の末に中国全土を席巻した抗議デモだ。
引き金を引いたのは、同月24日に西北部のウルムチ市で起きた火災である。100日以上のロックダウン下にあったとされる市内で火災が起き、すくなくとも10人が死亡。事故直後から、ゼロコロナ政策による消火活動の遅れに原因を求める指摘が、ネット上で盛んに囁かれた。
もともと、感染力が高いものの重症化率が低いオミクロン株が流行した22年春以降、中国のゼロコロナ政策は、各地のロックダウンの頻発により行き詰まりを見せていた。
病院がPCR検査の不備を理由に、救急搬送された患者の受け入れを断って犠牲者を続出させるなど、コロナ自体のリスク以上にゼロコロナ政策による理不尽な死が目立ってもいた。庶民の間でも、補償なきロックダウンによる休職・失業の拡大と、生活上の不便への不満が高まっていた。ウルムチ火災は、感情が爆発する最後のひと押しになった。
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source : 文藝春秋 2023年2月号