習近平は、2020年の武漢のコロナ危機をゼロ・コロナ政策で押さえ込み、成功物語に変え、政権強化の材料とした。他の国々の直截な中国批判に対し逆襲に出た。時あたかも、自己主張の強い対外強硬姿勢が最高潮に達した時期でもあった。
中国の外交官たちは、「相手を侮辱し脅迫する独断的な外交戦術」と見なされてもやむを得ない「戦狼外交」に打って出た。ゼロ・コロナ政策で自国のシステムの優秀さを信じ、米欧の上から目線に反発していた国民も拍手喝采をした。
この中で習近平は、ゼロ・コロナ政策の成功と中国の特色ある大国外交を使って、党内の地位を強化し、総書記3選につなぐ作戦をとった。これが「戦狼外交」を助長した。
このような外交姿勢は、国力の増大を背景に2008年頃から始まっていた。国粋主義的ナショナリズムの台頭と軌を一にする。2010年、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した際は、反日デモが起こり、希少金属の対日輸出制限を示唆した。2012年、いわゆる尖閣国有化問題の際も反日デモが多発し、マスコミの対日批判は厳しかった。この時点で「戦狼外交」の基本的骨格はすでにできており、日本もそれに曝されてきたのだ。
だが外交官たちの「戦狼外交」は中国の対外イメージの急速な悪化、とりわけ米欧との関係悪化をもたらし、多くの国を中国から離反させた。国内的必要から発動されたものとはいえ、中国外交の失敗であった。2021年5月、習近平は中国の「物語」をもっと上手に世界に発信することを要求した。「戦狼外交」修正の動きであった。
2022年10月、第20回党大会において習近平総書記3選が確定した。3選の道具の一つであったゼロ・コロナ政策に対し、国民の幅広い不満が表面化し、修正を迫られた。もう一つの道具であった「戦狼外交」に代表される対外姿勢も、米中関係の厳しさが広く認識されるとともに国内での批判は強まった。そこで、とりわけ米国との緊張関係の緩和ということになり11月のインドネシアとタイにおける習近平の「微笑外交」となった。党内をほぼ掌握し、国粋主義的ナショナリズムに対する依存度が減った分、やりやすくなったとも言える。
ソフトパワーの強化を
しかし中国の基本国策には何の修正もない。それが第20回党大会における習近平政治報告の語るところである。超大国への歩みを止めることもないし、中国に有利なように現行国際秩序を修正し、中国の影響力、発言権を強める動きを変えるつもりもない。軍事力の増強方針も不変だ。つまり習近平は戦術的転換を図ろうとしているということであり、実質的な中国の圧力は今後も強まるということである。
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source : 文藝春秋 2023年2月号