ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、ラクシュミ・ミタル(Lakshmi N. Mittal、アルセロール・ミタルCEO)です
「インドのカーネギー」。そう呼ばれる男は、今や国の英雄だ。
2006年に欧州の名門、鉄鋼生産世界2位のアルセロール(ルクセンブルク)を買収した時には、財務相が「インド出身者が世界最大の鉄鋼メーカーを率いるのは喜ばしく誇らしい」とコメントし、商工相は「インド国民の知性と起業の能力を実証した」と手放しで喜んだ。「ラクシュミ」はヒンドゥー教で「富の神」を意味する。その名の通り、彼の個人資産は600億ドルを超える。04年に開いた娘ヴァニーシャの結婚式には、6日間で7000万ドル(約76億円)をかけ、世間の度肝を抜いた。
ラクシュミの父はインド西部のマルワール地方の出身。この地の人々は「マルワリ商人」と呼ばれ、ユダヤ人や華僑と同様、世界中に人的ネットワークを張り巡らせ、商売が上手いことで知られている。ミタル家は父の代からインドネシアに住み着いた。ラクシュミはここで、その商才を開花させる。1976年、スラバヤで鉄くずから鉄鋼を作る電炉を開設したのが第一歩である。日本や韓国からの輸出攻勢に悩まされたが、小回りを利かせた納期対応で何とか生き残った。
インドネシアの電炉事業で基盤を固めると、トリニダード・トバゴやカリブ海諸国の鉄鋼メーカーを買収し、さらに経営不振に陥っていた東欧圏の国営製鉄に目を付ける。誰も欲しがらない傾いた製鉄所を設備投資で次々と息を吹き返らせた。
世界がミタルの名を知ったのは04年、現在、トランプ政権の商務長官を務める米投資家のウィルバー・ロスが所有する米インターナショナル・スティール・グループ(ISG)を45億ドル(約4900億円)で買収した時だ。ISGは「破産の帝王」の異名をとるロスが、経営破綻寸前だった米国の鉄鋼大手、ベスレヘム・スチール、アクメ・スチール、LTVスチールなどを買収・統合した会社である。ロスによる大リストラで赤字体質を脱したところを飲み込んだ。破産の帝王の上前をはねたのだから大したものだ。
この買収でミタルは粗鋼生産で世界一の座に就いたが、ラクシュミはそんなことでは満足しない。返す刀で世界2位のアルセロールの買収に乗り出した。ここで大きな役割を果たしたのがラクシュミの息子、アディテヤである。
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source : 文藝春秋 2019年3月号