ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、リーナス・トーバルズ(Linus Benedict Torvalds、Linux開発者)です
もしもあなたの使っているスマートフォンがアップルの「iPhone(アイフォーン)」でなかったら、あなたも彼の仕事の恩恵に浴している可能性が高い。
米調査会社のIDCによると2018年の世界のスマホ販売台数は14億2000万台で、うち85.1%は、グーグルが無償で提供する「Android(アンドロイド)」というOS(基本ソフト)で動いている。
アンドロイドは「Linux(リナックス)」というOSをスマホ用に改造したものである。アンドロイドと同様、無償で仕様が公開されているリナックスは、スマホ以外にも液晶テレビやビデオレコーダー、家庭用ゲーム機などのデジタル家電製品、産業機械など、ありとあらゆるデジタル機器に採用されている。
このOSがリナックスと名付けられたのは、ヘルシンキ大学の学生だったフィンランド人のリーナス・トーバルズが開発したからだ。1969年生まれのトーバルズは、幼い頃からヘルシンキ大学で統計学の教授をしていた祖父の古い計算機で正弦値を計算して遊ぶ子供だった。
11歳のときには、祖父の膝に乗って、祖父が紙に書いたプログラムをコンピューターに打ち込んでいた。高校卒業までの4年間は「だいたいコンピューターの前にいた」と本人が述懐している。つまりオタクだ。
トーバルズは大学生だった1991年、「ただの趣味」として、コンピューター用のOSを書き始めた。土台にしたのは1960年代にAT&Tのベル研究所が開発したOS「UNIX(ユニックス)」だ。当時のAT&Tは独占禁止法により、コンピューター事業への参入が規制されていたため、ベル研はこのOSを無償公開していた。
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source : 文藝春秋 2019年4月号