実践例が満載
スケールできるとは、どういうことか。要はビジネスや調査研究などの場面で、初期の成果を発展させる手法のことなのです。
たとえば1986年、アメリカのレーガン大統領のナンシー夫人は、薬物乱用に歯止めをかけるため、全米向けテレビ放送で、次のキャッチフレーズを使いました。もしドラッグを差し出されたら、「Just say no」(ただ、ノーと言おう)。
これは、当時アメリカで展開されていた「薬物乱用防止教育」の集大成でした。このキャンペーンは、警察官を学校に派遣し、子どもたちに薬物の誘惑への耐性をつけるというものでした。これは成功したのか。結論から言えば、機能しませんでした。
「マリファナやアルコールなど薬物に関する膨大な情報を子どもたちに与えたが、それらを使用する機会を目の前にした場合、統計上、使用率が有意に下がることはなかった。ある調査では、研修を受けたことで薬物に対する好奇心がかえって刺激され、試しに使ってみる確率が高まったことが示されている」
そもそもはホノルルやロサンゼルスでの先行した試みで成果が出たように見えたために、追加の検証をせずに大規模な取り組みに発展させたのが失敗でした。いわば「偽陽性」に騙されたというのです。
筆者はシカゴ大学経済学部の教授であると共に、ライドシェアのウーバーや、そのライバル会社のリフトで経営幹部を務めた経験があり、その経験を理論に高めています。
ライドシェアとは、マイカーの運転手たちがウーバー社などプラットフォーム企業と契約し、アプリで車を呼ぶ客の所へ迎えに行き、希望の場所まで届ける仕事です。
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source : 文藝春秋 2023年4月号